Vol.17 Share on Facebook Share on Twitter

グッドエラーは幸福の素。
失敗を怖がらない空気を、日本中に。(前編)

いつの時代も、イノベーションは社会の未来を切り拓く。しかし今、日本の多くの企業は無意識にその芽を摘んでいないか?そんな想いから企業に「グッドエラー」を提唱するのが、大広の荘野一星氏だ。彼はマーケティング職とクリエイティブ職を経て、現在は企業の事業開発から製品・サービス開発、組織開発に取り組む。そんな中、創造にはエラーが欠かせないことに気づく。間違いや失敗を恐れない組織はイノベーションを生み、幸福になれるはず。「エラー」と「幸福」という、一見、真反対である二つの関係は実は深いのでは? 日本の幸福学研究の第一人者であり、かつてはキヤノンでロボット研究・開発をされていた慶應義塾大学大学院SMD研究科の前野隆司教授と荘野氏の対談に、答えはあった。

荘野一星、前野隆司教授
右:慶應義塾大学大学院SMD研究科 教授 前野隆司氏 
左:顧客価値開発本部 大阪顧客発掘局 荘野一星 

—まず、荘野さんが提唱されている「グッドエラー」について、詳しく教えてください。

荘野:大広は今まで広告以外もやってたんですが、これからはBrand Activationということで、事業の開発やイノベーション領域に力を入れていこうという話になっています。そのときに自分がどこに注力していこうか考えてたんですね。それで普通世の中では、問いがあったら正解がある。正しいフレームとか、正しい手順とか、あるいは上司の一声など従うものがあって、アンサーを出す。それを、あえて創造を起こすために、これまで当たり前だと思っていた常識から視点を外してグッドエラーを起こすことが、これからは必要だと気づきました。

前野教授:エラーって「間違い」の意味ですか?

荘野:間違いや失敗よりはもう少し広義な「エラー」で、「グッドエラー」は創造を起こすために役立つ、常識から外れた考え方や捉え方のことを指しています。最初に「エラー」という言葉に注目したのは、僕の友人が学芸員をやっていて、ピカソの「泣く女」という絵をレゴブロックで模写するワークショップをした話を聞いたときなんですね。そこには子供もおじいちゃんもおばあちゃんもいるんですけど、「泣く女」は絵だから平面じゃないですか。裏側もどうなってるか分からないし、大きさも分からない。そういうところは勝手に想像して作るんですね。
それで子供がすごい大きいのを作ったり、おばあちゃんはちっちゃいのを作って裏側がへこんでたりとか、みんな全然形が違うんです。友人の解説によると、同じ絵を見てもそれぞれが捉えようとしてるものは違う。その中で「オリジナルってなんだろう?」というのがテーマらしいんですけども、オリジナルを完全にコピーする作業からも、実は「エラー」が発生していて、そこからさらにオリジナルのものが生まれるんだと言う。そのエラーっていう言葉がめっちゃおもろいと思ったのがきっかけですね。

—そういう意味でここで言う「エラー」は、保守的な価値観を外れていく、枠から外れた考え方のことですか?

荘野:そうですね。ざっくり言うと、僕らには枠の常識があって、この常識から外れるのも全部エラーだと僕らは言ってるんですね。その外れ値を見つけようとしたり、あるいはわざと発生させようとしたりするのは、僕らが今までクリエイティブを通してやってきたこと。その常識を超えるためのエラーをどんな風に起こすのかとか、どんな風に見つけていくのかを見つけたい。すでにいくつか見つけて実践もしていますが、さらにやり方とか考え方を増やしていくつもりです。

Good Error ロゴ

前野教授:そういう意味では、普通は「枠を超える」という言い方でいいのですが、日本人は「枠を超える」ではみんな枠を超えられないから、「エラー」なのかもしれないなと思いました。エラーってネガティブな言葉だから、すごい気になる。西洋の人だったら「Out-of-the-box thinking」で済むんです。
このグッドエラーで思い出したんですが、スタンフォードの先生はブレーンストーミングのときに、「Encourage wild ideas」って言うんですよ。ワイルドなアイデアをエンカレッジしろ。僕はそれを和訳したときに「くだらないアイデアを恐れるな」って書いたんです。これ、グッドエラーと一緒ですよね。くだらないを恐れない。日本人のマインドにはOut-of-the-boxよりも、もしかしたらグッドエラーとか、あえてネガティブにしといてポジティブに持っていくのが刺さるのかもしれないです。

荘野:確かに日本人は好きかもしれないですね。あと幸福学との関係で言うと、この「グッドエラーを起こそうよ」とか「エラーは起こしてもいいんだよ」という考え方は、まさに前野先生のおっしゃる幸福学の第1因子「やってみよう」なのかなと思いました。

—先生のおっしゃる幸福学の4つの因子、「やってみよう」「ありがとう」「なんとかなる」「ありのまま」のうち、1番目の因子ということですか?

前野教授:いや、第1、第3、第4因子ですね。「なんとかなる」、「ありのまま」も入ってきます。第3因子は「なんとかなる」っていう前向きで楽観的な因子なんですよ。リスクテイクですね。チャレンジして失敗するかもしれないけどやってみよう、が「なんとかなる」。もちろん、だから「やってみよう」となるわけで、第1も関係してますね。
それから第4因子の「ありのまま」は、人の目を気にし過ぎずに、人と自分を比べないことですから、間違いや失敗という否定の発想をせずにやろうよっていうこと。もっと言えば、第2因子のつながりと感謝である「ありがとう因子」は、いじめ合ったり批判し合うんじゃなく支え合ってやってみようよという関係性です。だからそういう意味では、やっぱりグッドエラーは幸福学の4つの因子が全部入ってますね。

荘野:やった!先生はよく「人と一緒に何かをつくると幸福感が高まる」っておっしゃっていますよね。エラーまさに創造ですけど、創造を起こすことと幸せは関係しているのでは?

前野教授:関係してますね。有名なアメリカの研究で、幸せな社員は不幸せな社員より、創造性が3倍高いっていうのがあります。つまり、幸せだと創造性が高まる。逆も言えると思うんです。創造性が高い活動、クリエイティブな活動をしていると幸せになる。創造性はもちろん、今までにない新しいものをつくることですから、従来はエラーとか枠の外と言われていたところに打って出ることですよね。だから、このグッドエラーは創造的で幸せなんだと思いますね。

荘野:そういう意味では、創造のために「この場は何言ってもいいよ」とか「間違ったことや面白くないアイデアとかでも言っちゃっていいよ」という場づくりって、大事ですね。

前野隆司教授

前野教授:心理的安全性ですよね。そういう場づくり自体は、安心してみんなが信頼し合える関係性づくりで第2因子なんですけど、その結果としてみんな「なんとかなる」から「ありのまま」に「やってみよう」となれる。だから、第2の安心安全の場がある結果として1、3、4が高まるっていう関係だと思いますね。

—安心安全の場というのは、自分と同意見の人が多数いるからそこが安心安全ということではなくて、いろんな意見が言える場だから安心安全ということですか?

前野教授:2種類ありますね。同調圧力でみんな一緒だから安心という人もいるんですよ。「違うことやれ」と言われるとキツくて、「言われたとおりのことだけやっていきたいんですよ」という人。そういう人にとっては何もしない安心安全はあります。だけど、実はそういう人はあまり幸福度高くない。だって、創造性の高い人のほうが幸せだから。みんなで同じことをする安心安全というのは、農耕をしてた頃にはそれで良かったと思うんですよね。みんな耕しているのに一人だけ遊びに行ったら良くないんで、みんなと同じようにやろうぜという世界のときは、クリエイティブじゃないエラーのない安心安全がいい。でも、これからはクリエイティブに違う意見を言うことで、新しいことをやっていこうという社会です。
日本が今ちょっと遅れてると言われてますよね。アメリカの西海岸はどんどん新しくなるのに、日本の企業が良くないというのは、新しいことをやる安心安全がいろんな会社でできてないからなんですね。

後編に続く

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