Vol.13 Printing

日本中の「望まない受動喫煙」をなくす。
大広が広告会社として、できること。

国民の健康を考えた、「健康増進法」。その一部を改正する法律が成立し、2020年4月1日より全面施行される。これにより、望まない受動喫煙を防止するための取り組みは、マナーからルールへと変わっていく。この新制度を日本中に周知する広報戦略を大広は手がけた。飲食店や公共施設に貼られることになる標識。中学生や高校生に知ってもらうためのリーフレット。ラジオCMやWebコンテンツ、PRイベントなど。さまざまなメディアを駆使し、マナーではなくルールを伝えていく広告は、社会を大きく変える役割を果たす。今回の案件について、チームの中心となってきた高橋勇策氏と荒巻好宣氏に、詳しい話を聞いた。

高橋勇策・荒巻好宣
左から、東京統合プロデュース局 高橋勇策 / 東京第3顧客獲得局 荒巻 好宣

—まず、受動喫煙対策の広報戦略について、なぜこれを国が推進することになったか?社会的背景を教えてください。

高橋:受動喫煙対策に関して、実は日本は遅れています。WHOでも各国の受動喫煙対策の評価があって、日本は低いっていうのがずっとあったらしいんですね。でも、来年の東京オリンピック・パラリンピックで世界中から日本に大勢の人が集まり、「スポーツ」を通じて健康増進に取り組む契機となる。それが、この事業の背景のひとつだと思います。

荒巻:受動喫煙が健康に影響を与えることは、科学的に明らかです。国際的に見ても日本は「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」の締結国として、受動喫煙対策を推進することが求められていたと思います。

—こういった公共事業には、よく参加されるのですか?

荒巻:大広としては、官公庁や都道府県の各取り組みなど、公共性の高い事業にも多く参画させて頂いてます。

—今回、企画をする中で、一番意識したことは何でしょうか?

荒巻:やっぱり喫煙者をネガティブに捉えるのは絶対駄目だと、思っていました。吸わない人の権利を守りつつ、吸う人の権利も守る。そこが重要なポイントかなと。だから、過度な表現はできない。法律が変わる、それによって日本がどう変わっていくか?新しい未来をつくっていく教育や、若い人たちに対しての意識づくりをどう表現していくか?その2つが重要だったかなと思います。

—具体的には、どのようなものを提案されたのでしょうか?

荒巻:今回の法律が施行することによって一番影響を受けるのって、飲食店の方と、20歳未満の若い人たちです。これらの方々への啓蒙づくりが重要でした。前者の飲食店などに対しては、法律の施行によって何が変わって、どんな対応をしなければならないかをきちんとわかるように発信していく。若い人には、すでにこういうことって学校とかでも教育上いろいろやってるし、教材もたくさんある中で、もう少しわかりやすい取り組みにするために「全国統一けむい問模試」っていうコンテンツを作りました。

高橋:「全国統一けむい問模試」は、コンテンツとしては期間限定ではなく今も残っていて、クイズ形式で楽しみながら学びができる形になっている。あと、リーフレットもつくったんですが、学びコンテンツとしてのリーフレットと、実際の学校での学びとの連動性っていうのかな。「ルールを子供たちに伝えていく中で健康にも気づきを与える」というコンセプトに、厚生労働省の方も文部科学省の方も共感されていました。

—中学生・高校生向けのリーフレットですよね?

高橋:そうですね。2020年4月から、飲食店や公共施設は原則屋内禁煙となり、喫煙にはその事業者の分類に沿った喫煙室の設置が必要になります。経過措置はありますが、多くの事業者がすぐに対応できるわけではありません。そうなると、たとえば20歳未満の高校生とかは、その対応がなされていない飲食店などでは、アルバイトもできなくなる。あと、これまで部活帰りに仲間と行ってた近所のラーメン屋なんかも、もし、そのラーメン屋が禁煙になっていなかったり、喫煙室の設置がなされていなければそのお店に入れなくなっちゃうんですよ。そういうのって生活に直結する話なんで、わかりやすく伝えていく必要があると思いました。

高橋勇策

—今回は厚生労働省の案件と伺っていますが、中学生・高校生向けのリーフレットとなると文部科学省も関わってくるのでしょうか?

高橋:はい、ヒアリングに行きました。

荒巻:やっぱり文部科学省の方は、本当に先生や子供のことを考えていらっしゃるんで、「こういうコンテンツだと先生が説明しにくい」とか「ここまでやると子供が理解できない」というのをディスカッションしながら進めました。ベースはこっちで作りつつも、教材として成立させるには文部科学省のほうが多くの知見があるので、アドバイスを頂きながら進めました。

高橋:喫煙やたばこの害については小学校のうちから保健の授業などで取り組んでいるので、今回は、新制度が子どもたちに直接的にどのような影響があるのかを優先して伝えていきましょう、などのやり取りをさせて頂いていました。

荒巻:確かに、たとえば今まで喫煙できるカフェでアルバイトしてた高校生が、今後はもうそこで働けなくなるとかは、これでしか言えないから伝えてほしいとおっしゃっていました。店や公共施設に標識を貼ることが義務化されるので、そういうところをベースに作っていったほうがいいのでは、などという意見も頂きました。

—今回の法律改定で日本の飲食店はすべて、禁煙か、喫煙OKか、分煙に分かれていくのですか?

荒巻:さまざまな条件はありますが、基本は、2020年4月から原則屋内禁煙となります。一定条件を満たせば、喫煙専用室や加熱式たばこ専用喫煙室の設置などの対応が可能です。喫煙を主目的とするバーやスナックなどは現在の喫煙ルールを継続することもできるんですが、喫煙可能な場所である旨の標識掲示は義務になります。

高橋:2020年4月以降、新規オープンの場合は、ちっちゃいお店でも始めから原則屋内禁煙になります。分煙も、今だとたばこを吸える席と吸えない席に分ける発想じゃないですか。それが今後は、分煙の場合は煙の漏れないたばこを吸うだけの専用室をお店の中に設置することになります。

—なるほど。そういう意味で、社会を変えてゆくための取り組みですが、やはり、やりがいは感じられましたか?

荒巻:そうですね。法律が改正されて、それが国会を通って、この7月からもう施行されている。国の事業として動いていくスピード感とダイナミックさは、すごい面白かったですね。国の新たなルールが始まり、それを周知していく事業に関われる機会って、ありそうでないなと思ったんで。あと、子供の教育の資材を作る機会もなかなかない。そういう意味ではすごくやりがいはありましたね。

高橋:僕もダイナミックさは感じていました。まだ目の前の風景は変わっていないけど、これから大きく変わっていくんだなって実感しながら取り組んでいました。あと、うちの実家って寿司屋なんですよ。今も親父と兄貴でやってる、たばこを吸えるお店なんですけど、親とか兄貴は法律が通ったこととか、そのルールも知らなかった。だから、法律って運用されてこそっていう難しさがあるなと思いました。作っておしまいではないんだなと。

—浸透するまで、伝えていかなければならない?

高橋:そうそう。いくら法律を作ってもその周知がちゃんといかないと、「ああ?そんなの知らねえよ」みたいな店ばっかりだったら、結局形骸化してしまう。だから、それをプロモーションするこの仕事は本当、ちゃんとやらなきゃっていうか、社会的意義がすごい高いなっていうのは感じました。標識も2020年4月に向けて、どこでも貼ってなきゃおかしいはずのものになってくるんで。ここのビルの入り口とかにも貼らなきゃいけなくなる。

—飲食店だけでなく、ビルなどにも貼られるんですね?

高橋:公共の施設というか、要は人が集まる場所は全てです。空港とか駅とか、そういうところ全部に貼られるはずです。

ちなみに、先ほどおっしゃっていた寿司屋のお父さんは、どちらからこの標識をもらうんですか?

高橋:厚生労働省のホームページから、データがダウンロードできるようになっています。あと、飲食店はそれぞれの事業主団体があって、うちの場合は全国すし商生活衛生同業組合っていうところに加盟しているので、そういう事業主団体から提供されたりしていくケースもあると思います。

—この標識を制作するとき、一番こだわったポイントは何ですか?

荒巻:まずは、有識者や社内のアートディレクターの北山と一緒に、加熱式たばこ専用喫煙室の案内用図記号(ピクトグラム)の開発から取り組みました。ピクトグラムって言葉や文字によらず、一目見ただけで多くの情報や案内を可能とするもの。日本人だけでなく外国人観光客にもよりわかりやすい案内用図記号とするため、いろんな方向性から枝葉で掛け合わせて、マトリクスみたいにして、ものすごい数を作って検証を重ねました。

荒巻好宣

—加熱式たばこ専用喫煙室の標識って、初めて見ました。

荒巻:加熱式たばこについては、日本ではまだピクトグラムとして統一見解はなかったんですね。それで、加熱式たばこっていろんな種類があるんですけど、全部、形がちょっと違っていて。鉛筆みたいだったり、差してるものだったり、箱みたいのだったり。それを共通して認識させなきゃいけないから、電気みたいなマークなのか、ボタンみたいなのがいいのか、煙が出てたほうがいいのか、出てないほうがいいのか、試行錯誤しました。

高橋:そういえば、この加熱式たばこ専用喫煙室のピクトグラムは、国家規格のJISに追加されたんですよ。

加熱式たばこ専用喫煙室の標識
<加熱式たばこ専用喫煙室の標識>

—なるほど。JISにも追加されて、日本中に貼られてゆくわけですね。こういった経験は、他のクライアント企業とのお仕事にも活かされていくのでしょうか?

荒巻:ルール化から、様々な施策を通じて意識や行動をつくっていくという取り組みは、他の仕事とも多く共通していると思います。厚生労働省の方々は本気で健康増進に取り組んでおられ、みんなが同じ目標に向かって進んでいく姿勢や社会課題に対して高い意識を持って取り組むことなどは、他の案件にも活かしていかないといけないなと、強く思いました。

高橋:たとえば働き方改革や健康問題など、さまざまな社会課題に担当クライアントと共に取り組んでいく際に、官公庁の推進事業と連携していく、各都道府県などと共創していくなどは、あると思います。

—最後にこの事業を通じて、ご自身が変わったと思われることがあったら、教えてください。

荒巻:社会課題への意識を高く持つこと。そして、当たり前ですが、情報の送り手と受け手のことをきちんと考えるということです。今回の法改正に伴う新制度においても、さまざまな意見があると思います。でも、その新制度の背景にあること、それがもたらす未来などを考えてもらい、どう行動を作ってもらうか。あらためて、「広告」ということに対して考えさせられました。文字通り「広く告げる」のも広告だし、教育を通じて意識や行動をつくってもらうことも広告だし、本当にいろいろなアプローチの仕方があるんだなと。

高橋:今回、結構コンパクトなメンバーであらゆることをやったんですよね。ラジオ広告やPRイベント、メディアへのプロモート、イベント自体の企画、グラフィック制作やweb制作、教育資材の制作まであった。そのすべてが、さっき荒巻が言ったように広く告げるっていう意味で、いわば本当にちゃんと届いてこその仕事。それが国の仕事で社会ごとだったというのは、社会課題を解決していく仕事に対するモチベーションをより高めたかもしれないですね。

—では、今後は実際、社会課題を解決するような仕事に取り組みたいとお考えですか?

高橋:そうですね。個人的には、そこはどんどん行きたいですね。今、僕が担当させてもらっているクライアントも、積極的に取り組んでいるので。今回の経験で、省庁の方の発想なども肌で学ばせてもらった。そういう経験もたぶん活かせるだろうし、活かしていきたい感じはしますね。

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