Vol.26 Share on Facebook Share on Twitter

顧客としての子どもに、
「面白い!」の共感をつくる。

大広が昨年から掲げる、ブランドアクティベーション。ここではクライアントの商品・サービスを購入して体験する人を、消費者や生活者ではなく「顧客」と呼ぶ。顧客は企業の商品・サービスによって異なり、大人ではなく子どもが顧客になることもある。そのときプロモーションを手がける大人は、日々成長して変わっていく子どもの共感を獲得するために、何をすべきか?子ども向け商品のキャンペーンを担当し、実績を残してきた大広WEDO大阪の鯉沼氏に話を聞いた。

大広WEDO 大阪クリエイティブ力Division 鯉沼 悠

—今日は、鯉沼さんが制作を担当されている子ども向け商品の広告を中心に、お話を伺っていきたいと思います。

鯉沼:僕は6年前から、あるメーカーさんの広告制作を担当させて頂いています。その中で、当時まだ僕は担当じゃなかった昔から子どもに人気の某商品について、別の方が大人向けのプロモーションをする話がありました。その後に今度はアイドル好きな人向けにしようとパッケージを変えたりもしたんですが、どちらもあまり売れなかった。それでもう一回、原点に戻ろうという話になりました。そのタイミングで僕も本格的に入り始めたのですが、僕は商品のためになることをしたいなって思ったんですね。クライアントさんとか、商品とか、ちゃんとユーザーのためになることを。

—そういった想いはもともと鯉沼さんのポリシーとして、制作されるどんな広告に対してもあったんですか?

鯉沼:いえ、ある失敗をしたのがきっかけです。それは広告としてめちゃくちゃ話題になって、朝の番組で広告コピーを全部読んでくれたり、PR効果もすごかったんです。だけど、商品が売れなかった。コンビニの棚に3ヶ月ぐらいは並んだりしたけど、すぐ棚落ちして、商品自体があっという間に消えたんです。そんな経験をしてから、商品からかけ離れたところにあるPRというのもあんまり良くないなと。悪いとは言わないんですけど、もっと商品とユーザーを近づける方法を考えようと思いました。
それでさっきの「原点に戻ろう」という話になった広告について言うと、まず、この商品を「子どもたちを応援している○○」と定義して、大きなフレームをつくろうと思いました。そうすれば、子どもたちが「頑張ったときは、それが食べられるんだ!」みたいなストーリーができて、ユーザーからの反応が返ってくるんじゃないかと。

—「子どもを応援する」ということを正面から捉えると真面目な広告も多いですが、これはかなりやんちゃな感じですよね。

鯉沼:ずっと思っていたのは、勉強とか習い事とか家のお手伝いでお母さんお父さんから褒められて、「だからご褒美ください」って、子供の気持ちも代弁できていないし、商品から遠いかなと。それよりは「友達と喧嘩したけど仲直りできたから、これ食べよう」とか、「すごいイタズラしたけどみんな笑ってくれたから、これ食べよう」とかいうほうが、子どものクリエイティブな感じがある。それに世界のレベルで見ると、ちょっと変な子が最終的に世界と戦えていくとかあるじゃないですか。そういう風な子が世の中にいっぱい出てくるほうがいい。子どもの自由な想像力とか、やんちゃさとか、大人が見たら「ちょっとどうなの?」って思う感じを応援したいと思いました。
たとえばちょっと前に、セミは実は1ヶ月生きていたというニュースがあったんですね。見つけたのは確か高校生ぐらいの子で、山でセミを捕りまくって、印を付けて山に帰して、もう1回捕って、さらに印を付けて山に帰してっていうのを2回ぐらいやったら、どうやら統計的に1ヶ月生きているらしいことが分かった。「セミ、1週間で死なないらしいよ」という大発見があって、すごい面白いなと思ったんですよね。こういう子がいっぱいいる世の中って、すごくクレイジーでいいじゃないですか。

—確かに。当たり前と言われていることを気にせず試してみる姿勢って、大事。

鯉沼:そうなんです。たぶん大人だったら「そんなの無駄じゃないか」と思う。だけど、研究とかってほとんどが無駄なことなんですよね。僕の父は理系で、ゴリゴリに科学系の会社に勤めていたんですが、無駄なことをトライ・アンド・エラーしてやってくこと自体が物づくりのベースだと話していました。会社とか大人はすぐ効率を考えるんですけど、効率じゃないところにも価値はある。それを若い頃に知ってるって、すごく素敵だなと思って。

ーそうやって常識に囚われない子どもたちに向けて訴求するために、どんな工夫をされたんですか?

鯉沼:大人って割とジャンルで分かれてるので、共感を見つけやすいと思うんです。でも子どもってジャンルじゃないので横軸があまりない。だけど、「面白い!」とか「楽しい!」に関してだけは横軸で刺せる。だから、子ども向けの漫画とかも今でもたまに読んでいます。それで子ども目線になって「こういうのが楽しいんだよねー」って思いながら、自分も楽しんで見る。久しぶりにゲームをやり始めたのも、子どもの仕事をやり始めてからしばらくして、「やっぱりゲームは子どもの共感を取りやすいな」と思ったからです。

—鯉沼さんは徹底的に突き詰めるタイプと伺ったのですが、では、今は「ゲームマスター」でもあるんですか?

鯉沼:ゲームマスターは極端です(笑)でも割とのめり込むタイプなので、子どもに人気の某アクション・シューティングゲームは上位0.1%に入るぐらいには、プレイしました。しつこい性格なんでしょうね(笑)今、PCでゲームしているので、バトロワか5ⅴ5のFPSやってる人がいたらフレンドになってください!と記事に書いておいてください!

—わかりました(笑)そうやって「子どもマスター」になられて広告を制作した商品は、着実にファンを増やしているとの話も伺います。ファンのコミュニティのようなものは、あるのですか?

鯉沼:前から子どもが集まれるコミュニティをつくりたいと話していて、2年ぐらい前からやってます。今現在は、だいたい、26000人ぐらいの有志の子どもが集まるコミュニティになりました。
そこで、みんなの夢が盛り込める歌をつくりました。全国から夢を募集したら、「長生きして1億歳まで生きたい」とか「縄跳び100回できるようになりたい」とか、3,000人ぐらい応募が来た。内容はバラバラなんですけど無理やり一つの歌の中にまとめて、計算上は15時間ぐらいの460何番まである歌詞になった。面白いからPRに載せてみようよと調べたら、ギネスにもっと長い歌があったんので、じゃぁ、子どもたちと一緒にPVをつくりましょうという話になりました。
それで、日本全国を回るPVをつくろうと思ったんですが、タレントさんは一緒に回れないから、そのままだと子どもたちを地方で撮っていくだけになっちゃう。それって絵的にちょっと悲しいし寂しいじゃない?となり、CM撮影の合間にタレントさんの3Dスキャンをとらせてもらって、銅像をつくることになりました。その銅像と子どもたちを一緒に全国で撮っていったら話題になり、こどもの日のイベントとしてニュースに取り上げてもらったりもしました。

—銅像を作ろう!というのは、この商品の顧客である子どもを第一に置いて、そういう発想になったんですか?

鯉沼:どうなんでしょうね。でも僕が子どもだとしたら、超リアルな銅像が実際に目の前に来て、一緒に撮影できるって楽しい。だから、子どものためを思ってというより、僕が楽しいから子どもも楽しいんじゃないかな?という発想です。
子どもってすごい難しいターゲットで、大人から見たいわゆる「これ楽しいんでしょ?」があまりない。だから、「これって面白くない?」という悪ふざけを大人がして、これなら子どもたちがキャッキャッ笑ってくれるかな?みたいな感じでいかないと、たぶん受けない。今回も、子どもたちが「え、面白い!」ってベチベチ銅像を叩いてたら、それは成功。逆にこっちが子どもに合わせていき過ぎると「サブッ」て思われる。だって子どもが笑うことって、ほとんどやっちゃ駄目なことじゃないですか?今のYouTubeとかでも、大人が発想してなかったようなことで笑ったりするから、そこを提供していかないと難しい。ちょっとずらして提案していく感じです。だから、世の中に対する遊び心も、子どもたちに対して遊び心を持って接する感覚も必要なのかなと。

—ちなみに大広では「顧客価値」を大切にされていますが、この商品がもたらす顧客価値は何だと思いますか?

鯉沼:やっぱり遊び心じゃないですかね。商品を通して、たとえ怒られても自由にもっとやっていいんだみたいな気分になるとか、そういう気持ちの子たちが増える。そういう価値をつくれるのが一番いいんじゃないかなとは思います。

—「やっちゃっていいんだ」みたいな感じですか?

鯉沼:そうですね。「やっちゃっていいんだ」というのが一番近いかもしれない。そうやって子どもから好かれた上で、プラスアルファで親からすごい嫌われない。親から「もう絶対に駄目」と言われない限りは、子どもが喜べばいいんじゃないかなと思います。

—なるほど。ところで鯉沼さんは去年、大広から大広WEDOの所属になられたと伺います。大広とWEDOで大きく変わったことはりますか?

鯉沼:正直あんまり変わらないんですよね。昔から気にせず領域を超えてやってたので。周りの人にめちゃくちゃ迷惑掛けていると思うんですけど、勝手にマーケの話をしたりとか、クライアントに対して営業的な話もしたりとか。あと、クライアントのことが好きだからという理由で前からいろいろ余計な提案もしたりしてきたので、正直、僕個人はあんまり変わってないです。

—もともと職域はあまり関係なかった、ということですかね?

鯉沼:そうですね。だから、これからはより専門性は高めていかなければとは思っています。アウトプットとしてどうなのかとか、売り場の構築とかどうなるんだとか、そういうところまで気にするようになりました。だけど、たぶんWEDOじゃなくても気にしたのかもしれない(笑)
僕はすごくいいチームに恵まれていて、得意先と営業がすごく近いというか、パートナーになっている。そして営業の人たちが本当に僕と同じ方向を向いているので、大広とWEDOみたいな、よそよそしさとかもないですしね。

—では最後に伺いたいのですが、今後こんな仕事をしたい、というようなことはありますか?

鯉沼:商品のためになりつつ、世の中の話題になることをしたいですね。去年からWEDOになって、ある種の制作会社というか制作チームになったので、会社的にもその力を見せるために話題になることをしたいというのは思います。そうやって話題になることは、顧客価値があるということ。だって、人のインサイトを突けないと話題にならないので。そうやって話題になって商品も売れることを目指していきたいです。

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