Vol.18 Share on Facebook Share on Twitter

グッドエラーは幸福の素。
失敗を怖がらない空気を、日本中に。(後編)

いつの時代も、イノベーションは社会の未来を切り拓く。しかし今、日本の多くの企業は無意識にその芽を摘んでいないか?そんな想いから企業に「グッドエラー」を提唱するのが、大広の荘野一星氏だ。彼はマーケティング職とクリエイティブ職を経て、現在は企業の事業開発から製品・サービス開発、組織開発に取り組む。そんな中、創造にはエラーが欠かせないことに気づく。間違いや失敗を恐れない組織はイノベーションを生み、幸福になれるはず。「エラー」と「幸福」という、一見、真反対である二つの関係は実は深いのでは?日本の幸福学研究の第一人者であり、かつてはキヤノンでロボット研究・開発をされていた慶應義塾大学大学院SMD研究科の前野隆司教授と荘野氏の対談に、答えはあった。〈前編はこちら

荘野一星、前野隆司教授
右:慶應義塾大学大学院 SMD研究科 教授 前野隆司氏
左:顧客価値開発本部 大阪顧客発掘局 荘野一星

—では、グッドエラーの代表例とも言うべきスリーエムのポストイットを生んだような文化は、日本の企業では育たないのでしょうか?

前野教授:いや、昔はありましたけどね。僕がいたキヤノンでも、スポイトにはんだごてが当たったら一瞬で温まってピュッとインクが出たから、バブルジェット方式のインクジェットを作った。

荘野:へえ。キヤノンのインクジェットもエラーから生まれたんですか!

前野教授:そうなんですよ。あの頃はどこの会社も残業規制とかなかったから、深夜に遊びながら「こんなんできたぜ」とかを大学の研究室みたいにやってたんですよ。夜に外で食事して会社に戻ってきてから、「思いついたぜ、ちょっと実験してみよう」という感じなので、エラーも起きるわけですよね。そこに戻れとは言わないですけど、やっぱりもっと自由に何かをやれる構図を今の日本でもつくらないとイノベーションは起きないです。昔、僕がいた頃のキヤノンにも20%ルールがありました。

荘野:あったんですか!

前野教授:そうなんですよ。1980年代、日本の企業はみんなイノベーティブだったんです。僕、会社で超能力の研究もしてたんですよ。勤務時間の20%を自由にやってもいいんだったら、絶対変なのをやろうと僕は思った。どうやってもうまくいかないかもしれないけど、うまくいったらすごいじゃない?

—その研究に対して、会社から成果は求められなかったんですか?

前野教授:求められないです。発表はしましたけどね。「私には超能力ありませんでした」と。それで、「やっぱりそうだったか」と言われる。上司だってそれは20%の部分だと分かっているから、オッケーなんです。

荘野:めちゃくちゃ面白い。

前野隆司教授

前野教授:ただ同じ頃、某電機メーカーにはエスパー研究所があった。僕らが3人ぐらいの規模でやってるときに、そちらは本気で研究所をつくってたんです。それぐらいちょっと無謀かもしれないギリギリのところを攻めてたんですよ、日本企業は。
アメリカだってガレージですからね。何もないとこでワーッと作って、それがベンチャーになってすごく大きくなっているんですから。今、そういうエラーを楽しむ文化が日本の企業から失われていますよね。

—そういうイノベーションに対する許容感は働き方改革などが進んでいくと、さらに無くなっていく気もします。

前野教授:もちろん過労になるのは良くないですけど、ワクワクしてやる趣味のような、でも、ものすごいことになるかもしれない時間は必要ですよね。だけど面白いもんで、時代っていうのは引き返せない。イノベーションを起こしたから売れるようになった。売れるからそれで徹底的に儲けようと、エラーのない大規模に安く作る設計をした。そうすると仕事が面白くなくてみんな疲弊してくる。さらに残業し過ぎて大変な人が出たから、残業規制になったわけじゃないですか。どんどんイノベーションから遠ざかっているんですよね。だから、一回オールクリアして事業でも起こしてみなさい、と思います。戦後の日本はものすごいイノベーティブだったんです。当然ですけど焼け野原ですから、起業数とかものすごい多いんですよ。今の一流企業は大体当時にできていますし。
今、実は東北で起業が多いんですね。大震災は大変なことでしたけど、そこでゼロから考えることができるようになった。日本人はものすごいいろんな新しいことを起こす力が、本当はあると思うんです。日本人は実は世界で一番イノベーティブだっていう説もあるんですよね。ちっちゃい工夫、改良型イノベーションも含めて調べてみると、日本人が製品作るときの細かい気配りは素晴らしい。浮世絵から寿司からおもてなしから、ちっちゃいように思えてすごく気配りをして改良をすることができるんですよね。
だから、グッドエラーみたいな考え方が、ちゃんと「なるほど」ってうまく定着すればいいし、今、社会に閉塞感を感じるのは、見方を変えるとすごいチャンスかもしれない。

Goog Error ロゴ

荘野:確かに今、企業も僕らも物やサービスが売れるだけじゃダメで、社会にどれくらい価値を提供できるかが大事という風に変わってきている。でも、社会課題がこうあるから、それに対して「こんなことします」じゃなくて、もっと違う貢献の仕方がありそうやなって、聞いてて思いました。

前野教授:そうですね。僕が思うのは、確かにSDGsという課題があるから解決しようというのもいいんだけど、もっとワクワクするからやろうよ、みたいなほうがいい。個人の活力、ワクワク、イキイキ、ときめくことと、「あ、このやり方で環境問題も解決できんじゃん」みたいなことの、うまい掛け合わせになるといいですよね。

荘野:そうなんですよ。ワクワクとか好奇心が出てくるのを補助することって、十分社会貢献だと思うんです。みんなが好奇心に満ちてたらいい。

前野教授:常識的に大人から見ると、いやいやそれ成り立つわけないだろ、と完全にエラーのようなことでも、好奇心を持ってとにかくやってみると分かるんですよね。

荘野:おっしゃるように行動を起こすことが大事で、でも、それがサラリーマンでは一番難しいです。だから、「エラーでいいじゃん」、「グッドエラー起こそうよ」と、みんなが気軽に行動を起こせる風土をいろんな企業につくりたいと思いますね。そのために、エラーを意図的に発生させるための情報収集法やワークショップ、発想法や整理法などの方法論を研究して、実践中です。

前野教授:すでに具体的な事例もあるんですか?

荘野一星

荘野:今、一つうまく行き始めているのが、タイムマシンワークショップですね。チーム全員で10年後、20年後、100年後とか行きたい未来を決めて、みんなでタイムマシンに乗って見学して回るというものです。もちろん本当に未来には行くことはできないので、未来に起こると予想される社会問題などの情報を集めて、そこに僕らが妄想を加えてカードにして用意しておく。それで、みんなでそのカードを見ながら、未来の自分たちの会社や事業はどんな活動をしているのだろう?と妄想を膨らまします。
それで、たっぷり妄想したら、またタイムマシンに乗って現代に戻る。そうすると、今の自分たちの視野がすごく狭かったことに気づくんですよね。そこから今度は、今からやっていきたいことを妄想し始めると、これまでの枠を超えたアイデアがワーッと出てくるので、そのまま具体的な形へと進める計画も立てちゃう。すごくシンプルなんですが、「さぁ、枠から出よう!」というきっかけになり、グッドエラーを起こせます。

前野教授:現代という枠の外に出た未来を体験してみて、そこから考え、また発想するという繰り返しがいいですね。

荘野:ただ、これはあくまで擬似体験なので、実際の「行動」や「体験」を起こしていく活動をこれからは組み込んで行きたいと思います。未来の部屋を作って、そこで一ヶ月暮らしてみるとか、もっと「体験」を作って行きたいです。

前野教授:やっぱり行動がイノベーションを呼ぶので、常識の外に出ることをグッドエラーとしてポジティブに捉えて体験するところに、可能性を感じますね。

荘野:ありがとうございます。グッドエラーは企業が自力で起こすことはなかなか難しいので、これからも「うちでもやってみたい!」と思われた方のご相談に乗っていきたいです。気になった方は、ぜひ大広の荘野までお気軽にご連絡頂けたらいいなと思います。

〈おわり〉

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