Vol.27 Printing Share on Facebook Share on Twitter

いまさら聞けない“eスポーツ”
自らが“プレイヤー”の社員が起こす新ビジネス

「eスポーツ」の文字を目にすることが多くなった2020年。様々な業界からeスポーツビジネスへの参入が始まっています。大広でもクライアントとeスポーツチームを仲介してスポンサードを成立させるなどビジネス展開を進めており、今後の拡大にも大きな期待を寄せています。
本記事では、自身もeスポーツプレイヤーとして大会にも参加している大広の高田信之が、改めて「eスポーツ」とは何かに触れ、現在のeスポーツ市場の動向と何故大広がeスポーツビジネスに乗り出すのかについて語ります。

本記事は、博報堂DYグループ“生活者データ・ドリブン”マーケティング通信”に掲載されたものを転用しています。

高田信之
東京第1ブランドアクティベーションプロデュース本部 第2プロデュース局 高田(信)チームリーダー 高田信之

──「eスポーツ」の定義

まず、「“eスポーツ”という言葉が何を指しているか」というところからご説明いたします。実は、まだ表記も統一されておらず、“eスポーツ”の他に“Esports”や“eSports”と書かれることがあります。
eスポーツの競技連盟である日本eスポーツ連合(JeSU)はその定義を「エレクトロニックスポーツの略であり、(中略)コンピューターゲーム、ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際の名称」としています。対戦型のゲーム以外にも、シューティングなどの1人用ゲームで相手と点数を競い合えばeスポーツと呼ぶことになるかと思います。RPG(ロールプレイングゲーム)のようなゲームを一人でプレイする場合は、eスポーツにはあてはまらないのかなと思います。
eスポーツの定義に当てはまる領域は非常に広いため、現時点では人によってイメージする内容がかなり異なっています。これを“球技”という言葉で例えるとわかりやすいと思います。“球技”といわれた場合、人によってイメージするスポーツが、野球やテニス、バレーボールなど様々に異なるので、特定のスポーツのことを話すときには、“球技”という言葉を使わないと思うのですが、eスポーツの場合はすべてのジャンルを“eスポーツ”として語られてしまいがちなので、eスポーツ全体の共通理解が進まないのではないかと感じています。

図1

英語の“Sports”という言葉には“娯楽”という意味が含まれており、ゲームやリラックスといった言葉も包含した表現として使われます。ですので、オリンピックのことを“Olympic Games”と呼んだりもしますよね。日本で “eスポーツ”という言葉が使われるようになった時も、「これはスポーツなのか」と議論されることがよくあったのですが、欧米では元々の言葉の意味から割とすんなりと受け入れられたようです。
「eスポーツがいつ始まったか」ということについても明確な定義は難しいのですが、近年の盛り上がりに繋がるいくつかの流れがあります。米国では家庭用ゲーム機が広がっていなかったため同じ場所にPCを持ち寄って大会を開催していました。韓国では90年代後半に経済危機に陥った際、国策として高速通信が普及し、それに伴ってインターネットで対戦するゲーム文化が広まりました。こうした複数の流れが組み合わさり、現在はeスポーツという言葉でまとめて呼ばれるようになっています。

──eスポーツの種類と、海外と日本における人気ジャンル比較

代表的なeスポーツとして、多くの競技者がプレイしていたり、国際的な大会が開かれているジャンルがいくつかあります。
1人称もしくは3人称視点でのシューティングゲームを指すFPS/TPS、複数の味方プレイヤーと協力しながら敵陣本拠地の破壊を目指すMOBA、格闘技を模した格闘ゲーム、スポーツゲーム、パズルを攻略することによってスコアを積み重ねるパズルゲームなどです。現在では各ジャンルのトッププレイヤーの多くはプロ契約している選手になっています。

図2

FPSやMOBAは世界的に人気があり、最近多く報道されている「ゲーム大会の賞金が○○億円」といったケースはこのジャンルが多いです。パソコンでプレイするゲームが多いのが特徴です。MOBAの一番有名なタイトル「リーグ・オブ・レジェンド(LoL)」は1億人がプレイしていると言われています。2019年にフランスで開かれた世界大会の決勝戦は、インターネット経由で4400万人が生観戦しました。時差が大きくある国からも多くの視聴者を集めています。

一方日本では、格闘ゲームやパズルゲームが人気を集めています。日本では以前からゲームセンターコミュニティがあり、そのコミュニティを中心に大会等が多く開催されていたことと、国内に優秀なハード・ソフトの開発メーカーが揃っていて家庭用のゲーム機が普及していることが大きな理由かなと思います。格闘ゲームやパズルゲームでは、世界トップクラスの日本人プロが多数いらっしゃいます。ただし、世界的に見るとFPSやMOBA程の多くの競技人口を獲得している訳ではないこともあり、「大会の賞金が数億円」といったケースはあまりありません。

eスポーツのタイトルになり得るゲームが明確に定まっていないので、どこからをeスポーツプレイヤーと言うのかは難しいのですが、現在のところすべてのタイトルを合計して世界で1~2億人がeスポーツのプレイヤーで、3~4億人のオーディエンスがいると言われています。

先進的なのは欧米、韓国、中国で、最近では東南アジアでも盛り上がっています。国によっては、eスポーツを長時間放送しているテレビのチャンネルもあります。
eスポーツのプレイヤーや視聴者は、世界的に見ると10~20代が圧倒的に多いです。日本では格闘ゲームの人気も長い歴史もあるので、30代のプレイヤーや視聴者も数多くいます。私は40代ですが、日々練習しています(笑)。モバイルのゲームだと10代前半が多く、女性のプレイヤーや視聴者が中心となっているタイトルもあります。年齢や性別に関係なく楽しむことができることも特徴で、北欧の70~80歳のみが所属しているプロチームは大きな話題を集めています。また身体が不自由な方でもゲームの操作ができるように、口や少しのボタン操作でプレイできるデバイスなども開発されていますし、障害者の方向けのプロ養成所などもあります。

──eスポーツのリーグと日本のeスポーツ大会の現状

MOBAの代表的なゲームであるLoLの場合、法人のプロチームがリーグに参加しています。サッカーなどと同じです。LoLは5対5で競い合うゲームであり、選手間の密な連携が欠かせないため、チームに所属する選手は共同生活を送って練習に勤しむのが一般的です。海外のリーグにはフランチャイズ制のものもあり、参入に20~30億円程かかったり、一定以上の資本金があることが求められています。契約料が非常に高額ですが、リーグ運営が安定することにより長期的な見通しが可能になるため、大会賞金などで見合ったリターンが得られると考えるチームも多いようです。高額な賞金は、ゲーム内で販売する武器や衣装などのアイテムの売上から一定割合の金額をプールしたり、大会の参加者からエントリー費を徴収するなど様々なケースで行われています。
サッカーなどの実際のスポーツと異なり、選手がリーグ中に怪我をすることがほぼないので、チームが抱える選手は小規模で済みます。そのため投資効率の良さが注目され、アメリカや東南アジアでは投資の対象になっているケースが多くあります。

一方日本では、法律の問題でゲーム会社が主催する大会に大きな賞金が掛けられません。景表法(不当景品類及び不当表示防止法)によって、「大会賞金の提供が顧客を誘引するために供給する賞品の取り引きに付随している」と見なされるためです。ですので、ゲーム会社主催の賞金が少ない大会と、第三者が主催する賞金の高い大会が並立している状況です。また刑法の賭博罪や、風営法なども複雑に絡んできます。
有料で販売するソフトの場合は賞金が掛けにくいのですが、無料で利用できるスマホゲーム等の場合は、メーカーが高い賞金をかけても販売促進に当たらないため問題は無い、という解釈が一般的です。このように国内の賞金に関しては解釈がはっきりしているものもある一方で、まだグレーな部分も多くあり、リスクがあるものには関わりづらいため海外に比べると高額賞金の大会が多く行われているとは言えない状況です。JeSUはそういったリスクを無くすための取り組みを進めており、その一つがプロライセンスの交付です。これによって、大会の賞金を販売促進のためではなくプロに対する報酬だと解釈できるようになるので、公認大会で好成績を収めたプレイヤーへのライセンス交付を行っています。
日本のeスポーツチームやプレイヤーは増えてはいますが、現状の賞金額では経営上難しいだろうなと感じます。法的な問題を解消し、賞金額が増えれば注目度が上がりますし、参加プレイヤーの裾野も広がり、大会の価値が高まります。大会の価値が高まれば、その大会での勝利の価値も高まり、好成績のプレイヤーにはスポンサーが集まりやすくなるかもしれません。賞金額が問題のすべてではないと思いますが、うまくエコシステムが回りだすきっかけの一つにはなると思います。

図3

──いま、広告会社がeスポーツのためにできること

ここまでeスポーツの概要や、それを取り巻く状況についてお伝えしてきました。
ここからは、我々のような広告会社がeスポーツをどのようにサポートしていけるかについてお話したいと思います。大広がeスポーツに関わる際に最も配慮しなくてはならないと思っているのは、eスポーツにはプレイヤーや大会運営者、コミュニティなど、「eスポーツ」と呼ばれる以前から「ゲーム」を長く愛して関わってこられた方が大勢いらっしゃるということを忘れないことです。そのような人達がいる中に「eスポーツビジネスが盛り上がっているから広告会社も関わっていくんだ!」と、土足で踏み荒らすようなことは絶対にしてはならないと思っています。

私自身、格闘ゲームの「鉄拳7」をプレイしており、2020年の1月に開かれた“EVO Japan 2020”や地方の放送局が開催する大会に参加するなど、プレイヤーとしてもeスポーツを楽しんでいます。また当社の中にもeスポーツチームを作り、現在25人程が所属し、一緒に大会に出たりしています。こういった活動を通して、eスポーツをプレイヤーとして自ら楽しみ、しっかり理解した上で、ビジネス上のサポートができればと考えています。また、子供の教育への問題などが指摘されることもありますが、使い方さえ間違えなければ害のあるものではないと思っています。実際にポーランドでは、家にいる子供向けのレクリエーションの一つとして国がサイバースペースを提供している事例があります。我々はそういった先進事例の研究も続けていく予定です。
当社で実績になっている事例はまだまだ少ないですが、大会の開催、放映権の販売、選手の肖像権の管理など直接的な領域だけではなく間接的なビジネス化の可能性も十分考えられると思っています。その際も、先駆者の方々へのリスペクトは忘れてはならいないと思います。クライアントにチームスポンサードしていただいた事例もありますが、その際には、自社の商品を宣伝してもらうため、という姿勢ではなく、チームと選手をファンと一緒に応援する、寄り添うという気持ちになっていただくようにお願いしています。

図4

現在の日本のeスポーツのプロ選手は、まだ世界的に活躍しているサッカーや野球などのスポーツ選手ほどのリーチ力はありませんが、ファンからの支持はとても厚く影響力は大きなものを持っています。彼らが飲んでいる飲み物であれば自分も飲みたい、と思ってくれるような傾向もあり、プレイヤーが積極的に商品を宣伝してもそれを受け入れてくれる方が多いようです。

── 今後のeスポーツ市場の展望
~技術革新で更に盛り上がり、3000億円市場に

今後の技術革新によって、eスポーツのエンターテインメント性は更に高まるでしょう。5Gの環境が整っていくと、プレイヤーだけでなく、視聴者にとってもメリットがあると思っています。視聴環境が圧倒的に良くなるので、帰宅途中に中継を見ながらそのコンテンツに関係する様々なデータを取得して楽しむ、といったことができるようになるでしょう。例えば、プロの目線を捉えたアイトラッキングのデータなんかは、とても面白いコンテンツになるのではないかと思っています。
ゲームタイトルによっては1試合が20~30分程度かかるものもありますが、そのダイジェスト映像の編集や実況の追加をAIによって行う技術の開発も進んでいます。ゲームのコンテンツは膨大になるため、視聴者が短時間で簡単に結果を把握できるようにするための仕組みは、非常に有用だと思います。

ゲーム本体やゲーム専用モニターなど、日本におけるeスポーツの直接市場の規模は2018年の推定値が44億円程度ですが、2025年には600~700億円と試算されています。周辺市場を含めると、現在300億円程度の市場が2025年には3000億円程度になると見られています。このように今後市場が広がっていくことは間違いない状況ですが、我々広告会社がどのような役割を果たすことができるかはこれからの課題です。現在の市場の中心は若者ですが、中高年層や主婦層にも対象を拡大していくことは大切なことの一つです。取り組み次第では、シニアの方がお孫さんと遠隔で一緒に大会に参加する、といったことも簡単にできるのではないかと思います。

図5

“生活者データ・ドリブン” マーケティング通信
http://seikatsusha-ddm.com/
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