Vol.28 Printing Share on Facebook Share on Twitter

eスポーツの潮流
~プロeスポーツチームのビジネスモデルやマネタイズの新たな形~

大広は近年、eスポーツビジネスを展開しています。欧米や韓国などと比較し、日本ではまだまだeスポーツのビジネスモデルが一般的ではありません。九州で活動するプロeスポーツチーム「Sengoku Gaming」は、チームやプレイヤーのマネジメントやマネタイズの新たな形に取り組んでいます。
本記事では、プロeスポーツチームのビジネスモデルや課題、広告会社との関係などについて、戦国ゲーミングを運営する株式会社戦国の岩元良祐取締役と、大広の高田信之が対談しました。

本記事は、博報堂DYグループ“生活者データ・ドリブン”マーケティング通信”に掲載されたものを転用しています。

左: 株式会社戦国 岩元良祐取締役 
右: 東京第1ブランドアクティベーションプロデュース本部 第2プロデュース局高田(信)チームリーダー 高田信之

高田:まずは、プロeスポーツチーム「Sengoku Gaming」の成り立ちと、岩元さんご自身のご経歴をお聞かせいただけますでしょうか。

岩元:「Sengoku Gaming」は、もともと、私が2017年夏に立ち上げたアマチュアのゲーミングチームが基となっています。その後、同年の12月に企業のスポンサードを受けることが出来、チームをプロ化し、現在の「Sengoku Gaming」と名付けました。
 現在はゲームタイトル別に5つの部門があります。FPS(First Person Shooter)というジャンルの3タイトルと、MOBA(Multiplayer online battle arena)と呼ばれるジャンルのゲーム、そしてレースゲームになります。今はMOBAの部門に一番力を入れています。今年5月にプロリーグの春シーズンがあり、準優勝を獲得しました。2019年が6位だったので、大きく飛躍出来たと言えると思います。この他のタイトルでも、国体準優勝を獲得していている選手が所属していたり、日本1位の獲得やアジア大会進出を果たしたタイトルがあったり、といった成果をあげています。

僕は、鹿児島の霧島市で生まれ、幼少期から様々なゲームのハードやソフトを与えてもらい、プレイしてきました。18歳の時にオンラインゲームを始め、その日に出会ったばかりの人と一緒に目的を達成出来ることに非常に魅力を感じ、深く興味を持ちました。23歳の時に、家業である水産の巻き網漁の会社を継いで代表取締役になり、少しゲームを離れたのですが、会社が落ち着いて、久々にゲームを始めたときがちょうどeスポーツチームが登場し始めた頃でした。それで、チーム運営にも興味を持ち、本業を続けながら、ゲームで出来たつながりの深い友人と一緒にチームを立ち上げようということになったのが、先ほどお話した2017年のことです。
 すると幸運なことに、立ち上げたチームが最初の大会で日本一を獲得したんです。そこから「本格的にやろう」、「世界を目指すなら日本らしいチーム名がいいよね」といった話になり、「Sengoku Gaming」というチーム名を決めてプロ化しました。
 名前についてはかっこよくないって結構反対されたのですが(笑)、日本は世界に比べて、eスポーツの普及が遅れていて、そのような厳しい戦国時代をこれから這い上がっていく、という思いを込めて名づけました。

高田:「Sengoku Gaming」では、そうした岩元さんのご経歴もあり、プロeスポーツチームと漁業の活動を絡めて、選手のセカンドキャリアにすることも考えていると伺っています。

岩元:私は水産会社の代表と、「Sengoku Gaming」を運営する株式会社戦国の取締役を務めており、それと並行して錦江漁協の組合長もしています。そのため、eスポーツ関係者と漁協の関係者の両方の悩みを聞く機会があります。eスポーツは、年齢の高い方にどうやってゲームに対するネガティブなイメージを解消してもらうかに悩んでいます。一方で漁協は、水産会社に若手が全く来ない、どうやったら水産の良さをPR出来るかを悩んでいます。
 こうしたことから、選手のセカンドキャリアとして水産は可能性があるのではないかと考えています。漁業自体はとても体力を要するのですが、それ以外にも水産には多くの仕事があって、オンラインでの販売や観光・レジャーを強化する、といったことも必要になっています。こういった分野であれば、取り組みやすいと思うので、eスポーツプレイヤーのキャリアと両立しながら、活躍出来る可能性も高いのではないかと思っています。そのように、eスポーツが水産と若い人々の架け橋になってくれれば、その後、他業種の方も水産業に入って来やすいのではないかと考えています。

高田:我々の交流が始まったのは、大広九州からの紹介がきっかけでしたね。私が社内の色々な場で「これからはeスポーツに取り組んでいくべき」と言っていたのを大広九州の担当者が見つけてくれて、「Sengoku Gaming」を紹介してくれたんです。ちょうどその時に担当していたクライアントがeスポーツに興味を持ってくださり、スポンサードしていただくことが出来ました。
2018年以降、eスポーツが大きく取り上げられるようになって、チームが一気に増えました。色んなチームが乱立する状況で、どのチーム、どのゲームタイトルをスポンサーに提案するか凄く迷いました。その中で、岩元さんは、ご経歴もとてもユニークで、一次産業とゲームへの熱い思いも感じました。岩元さんと話をする中で、スポンサーに提案するのに十分なセーフティネットを担保出来ていると感じ、提案することを決めました。

岩元:そうでしたね。今でも、高田さんと大広九州の方からは様々な勉強をさせてもらっています。僕らは魅力的な選手に所属してもらい、SNSやウェブ配信での拡散力・影響力といったことをお伝えする必要がある、というところまでしか考えが及んでいませんでしたが、スポンサー企業の皆さんからすると、本当に気になるのは「それを見ている人がそのスポンサー企業のファンになってくれる人なのか」ということなんですよね。その部分について、僕らは高田さん達から、ノウハウやアフターフォローなどを学ばせていただいています。高田さんご自身もプレイヤーということで、広告業界のなかでもかなりeスポーツへの熱量がある方なんじゃないかと感じています。(笑)

高田:岩元さんに、「僕もプレイヤーとしてチームに入れてください」といつも言っているんですが、なかなか入れてくれませんよね(笑)。

──プロeスポーツチームのビジネスモデルとマネタイズ

高田:ここからは、現在のプロeスポーツチームのビジネスモデル、プレイヤーのマネタイズについて話していきたいのですが、「Sengoku Gaming」には現在、何人くらい所属しているのでしょうか。また、プレイヤーはどのように生計を立てているのでしょうか。

岩元:現在は、約20名の選手が所属しています。選手を除くと、社員とスタッフは7名で、取締役を含めると約10名が所属しています。専業でプレイヤーをやっているメンバーが、今年になってかなり増えました。あるゲームタイトルの部門のプレイヤー達は全員専業だったりします。eスポーツプレイヤーの収入源は、他のプロスポーツ選手と大きな違いは無く、賞金とスポンサーからの広告収益が主です。少し違う部分は、動画配信などでゲームをしている姿を見せることで、個々人がファンから支援してもらっているところですね。

高田:現在の日本と世界で、eスポーツのビジネスモデルの違いでいうと、海外で行われる大会の方が賞金が大きいため、海外ではプロチームが投資対象にもなっていますよね。富裕層が投資してリターンをもらうといった流れがあるため、日本とは資本力に差があります。資本力が大きな海外のチームは、更なる様々な事業展開が出来て、それがお金につながって、というサイクルが生まれています。さらに先行者利益もあるかもしれないですね。また、日本よりも他のスポーツと近いポジションでeスポーツを捉えているように感じる機会も多いです。プレイヤーには何百万人単位で視聴者が付いていて、プレイヤーは芸能人やタレントのような人気ですね。韓国では5Gの広告に出演者の一人としてeスポーツの選手が起用されているくらいです。
岩元さんは、日本が海外と同じような意識になるには、どういうことが課題だと思われますか?

岩元:ゲームをプレイする上での文化、感覚の違いも課題だと思います。日本では長年に渡り、お金を払ってハードやソフトを買ってプレイするのが当たり前で、今でもその文化が続いています。無料ダウンロードのスマホゲームなども出てきましたが、まだ10年ほどの歴史しかありません。一方で海外では以前からパッケージでソフトを買う文化が無く、パソコンに無料版をダウンロードして遊びます。面白かった場合は、ゲームの中のキャラクターや衣装を買うなどしてお金を払います。文化が全く違いますよね。
 海外の状況に追い付くためには、日本発で世界的にヒットする無料ゲームが出てくる必要があると思っています。その下地は既にあると思います。日本のメーカーは、子供から大人まで遊べて、シンプルなゲーム性で、キャラクターがかわいい、といったソフトを作ることに成功していますから。こうしたソフトを無料で提供する環境を整えていけば、eスポーツで世界的にヒットするタイトルになる可能性があると思います。特に「世代問わず遊べる」といったゲームは海外のメーカーは苦手としていますので、日本メーカーの強みが生きる部分だと思います。

──今後のeスポーツビジネスにおける理想のエコシステム

高田:今後のeスポーツビジネスをより軌道に乗せる上で、どのようなエコシステムを築いていくべきだと考えていますか。

岩元:選手にもっと広告価値を付けて、協賛を受けていく必要があると思っています。現在、「Sengoku Gaming」は、飲料やPC、ゲームデバイスのメーカーに支援していただいています。私たちのチームのファンは年齢が若いのですが、彼らがスポンサーの製品を持ってチームの大会を観戦する、というケースがすごく増えています。
 スポンサーにメリットを感じていただく上で重要なのは、チームがスポンサーに向き合って選手自身が商品への愛情をしっかり伝えることだと思っています。選手が「ただ仕事だから宣伝をしている」という姿勢では、それがファンにも伝わってしまいます。勿論、商品に触れるきっかけは仕事ではありますが、選手が気に入れば製品の良さや美味しさを自然に伝えられるようになります。「(広告に関係なく)自分でもそればかり買うようになった」と言っている選手もいます。そのような関係性になれば、ファンの方も、「あの選手が、チームが使っているんだから」と応援する気持ちで愛用してくれるようになっていきます。ですので、チームとしては、選手と応援してくれる企業をどう向き合わせるか、というのが大事な仕事ですね。

実際、1~2週間に一度、選手と面談して、SNSの活用法や、こういうスポンサーが新たに付いてくれそうだ、といったことを説明しています。「こういう人達の応援に応えなきゃいけない」とプレイヤーに伝え続けるのも僕の役割だと思っています。

高田:僕は広告会社の人間で、チームとスポンサーを出会わせる立場として思うことは、eスポーツはまだまだ成熟していない業界だと思うので、まずはスポンサーの方にも、チームやそれを運営する経営者の方に興味を持ってもらって、ファンの一員として一緒に盛り上げてもらう、というところがスタートかなと思っています。
 私は「Sengoku Gaming」にスポンサーをご紹介してからは、一定期間は全選手の配信をチェックしていました。商品の取り上げ方など、ちょっとでも違うかなと感じたらすぐにチームに連絡させていただいてやり取りをして、といった具合でした。

岩元:経営者という立場になると、「こうした方がいい」と教えてくれる人が全然いないんですよね。パートナーとして高田さんのような方がいないと、仮にスポンサーさんが選手に「本当はそういう使い方をして欲しくないんだけどな」と思っていても知ることが出来ません。それが続くと、結果としてスポンサー企業が離れてしまいます。

高田:チームの思いと、スポンサーの思いの両方を受け止めて、両者にメリットを作っていけたらと思っています。現在は、商品を使うということがメインですが、今後の展望として、海外では高級自動車メーカーがeスポーツチームと共同で車をデザインするなど、商品開発まで一緒にやる事例が増えています。日本だと、「eスポーツ専用商品」といった形で銘打ったものに限られているので、もっとこういった動きが一般の商品まで広がって、eスポーツの知見を取り入れた商品が増えればいいなと思っています。

高田:eスポーツチームは首都圏を拠点としているところが多いのですが、岩元さんは九州出身ということで九州での運営にこだわっていますよね。

岩元:チームを立ち上げる前に海外の状況を見て思ったのが、「ゲームには国境が無い」ということです。国境が関係ないのであれば、国内の県や地域なんて、もっと関係ないのではないか、という気持ちがあります。チーム運営はどこでやってもいいはずで、それであれば自分が育った九州で、九州のゲーマーの意向を汲み取ったチームにしたいなと考えています。現状では、九州のゲームイベントは少ないです。ただ、最近、eスポーツに興味を持っていただける企業が増えてきまして、九州でも応援したい、九州だからこそ応援したいと言っていただけるようになってきました。結果として、九州でやってよかったなと思っていますね。

高田:今後どんどん通信環境が良くなって、オンラインでやれることが増えた時には、また違った展開が考えられますよね。サッカーのプロチームが北海道から沖縄まであるように、地域の振興にも役立つと思いますし、色々な切り口があると思います。そういった流れが、「Sengoku Gaming」のみなさんをきっかけに起こればいいなと思っています。もう一点、九州は東アジアに距離的にも近く、中国や韓国の方が観光で来られるケースが多いですよね。「Sengoku Gaming」にも韓国の有名プレイヤーが在籍しているので、九州で大会を開いて他の国の人に見に来てもらったりしたいですよね。

──コロナ禍の今と、今後のeスポーツ市場の展望

岩元:新型コロナウイルスの影響で、大会が中止になったりしていますので、eスポーツ業界も少なからず打撃は受けています。ただ、家で試合を観ることも出来ますし、スポンサーの商品も購入することが出来ます。この時期の取り組み方次第で、将来の日本のeスポーツ市場を大きく伸ばせるのではないかと思っています。その動きの中で、私たちが中心にいられたらと思います。

外出自粛を受けて、家でゲームをしている人が増えているとも言われています。この間に非常に売れたソフトが話題になりましたよね。ゲーム機器やパソコンの売上も増えているようですので、eスポーツ普及の下地が整ってきているとも捉えられますよね。

高田:我々大広としては、大会など選手やチームが活躍出来る場に関与して形に出来れば、という思いもあります。しかしeスポーツの中で一番中心にいて欲しいのは選手やチームなので、岩元さんのような人が活躍出来る場所も併せて作っていきたいですね。40代以上の世代にも、子供達が「eスポーツをやりたい」と言ったときに、「いいね」と言いやすくなるような下地を作りたいとも考えています。

岩元:我々だけで伸びるということではなく、eスポーツは、まだまだ業界全体が伸びないといけないフェーズにあると思います。是非、お互いに様々な活動を取り組んでいきたいですね。

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