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大広から遠い会社になる。チャネルからの変革をささえる
「株式会社 顧客時間」。

無印良品でヒット商品を生み出し、Web事業部長としてMUJI Passportを開発。2015年からオイシックスへ活躍の場を移した奥谷孝司氏。顧客による購入だけでなく、選択と使用を含めた一連の時間を、「顧客時間」と定義。これを基点とすることの重要性を説き、その成果によって各業界から注目を集めてきた。そんな奥谷氏と、大広でクライアントの事業変革や企業ブランディング設計を手がけてきた岩井琢磨氏がタッグを組み、「株式会社 顧客時間」が誕生した。共同CEOに就任した2人から、新会社への熱い想いがほとばしる。
*「顧客時間」は奥谷氏の主催するEngagement Commerce Lab.より商標登録出願中

奥谷・岩井

奥谷孝司 岩井琢磨

— まず、「株式会社 顧客時間」を設立した経緯について、教えてください。

奥谷:もともと岩井さんとは早稲田のMBAの同期だったんです。それで僕が無印良品を辞めたとき、「なんで辞めたん?」って岩井さんが聞きに来て。そのとき岩井さんが本を書いてはって、僕も「顧客時間」について連載してて、岩井さんは頭ええし手も動くから、一緒に本書けるんちゃうか?ちょっと仲良うしとこう思いまして(笑)
それで連載が終わってから一緒に本を書き出して、その中でお互いの役割分担が見えてきたっていう部分が大きいですね。
※二人の共著『世界最先端のマーケティング 〜顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略』は、日本マーケティング本大賞2018準大賞を受賞。

岩井:今、ちょうど大広が次のステージに行こうとしていたというのも、大きなきっかけでしたね。顧客を誰よりも知っているのが大広の強み。だとすると、次のステージは「顧客を武器にしていく」ことを目指すと思うんですね。顧客を基点に考えるということは、コミュニケーションだけでなく事業の根幹を考えることになるので、事業視点に立って、顧客を中心としたマーケティングを提案していくことになる。そして、奥谷さんは事業会社で顧客基点を徹底し、変革を起こしてきた人。顧客から見たときにどういう体験価値を提供できるかをずっと考えてきた人だったので、そういう点ですごく考えが一致したんです。

奥谷・岩井

奥谷:僕は事業会社にずっといて、事業から顧客とのつながりを考えるのが得意。岩井さんは一歩引いてフレームワーク、コンセプトをしっかり持ってこられる。それらが合わさるとコンサルティングとして価値を提供できる。一緒に書いた本の厚みがすごく増したのは、その組み合わせがあったからですね。しかも本として2万部売れたので、僕たちが組めば企業の具体的な事業課題に役立てると思ったんです。
今の時代はコンサルといってもコンサルだけでは評価されないし、広告会社も広告だけつくっていても評価されない。もう、納品型では駄目なんですね。だから、僕が大広グループに期待しているのは、事業主であるクライアントと伴走するという姿勢。
僕はMUJIという強いブランドを持つ企業にいて、強烈なブランドを基に顧客とのつながりをつくってきたので、そういう企業を一緒につくっていきたい。そのためには、クリエイティブな会社とやりたいっていうのもあった。これまで広告会社って、モノからコトを考えてきたんですね。それが今は、コトからさらに次のモノを考えていく時代。コトが考えられる人たちは、その先のモノも考えられるはずなんですよ。それで、岩井さんとなら一緒になんか面白いことができるんじゃないか?と思った。

—クリエイティブな会社は世の中に多くあります。著名な奥谷さんであれば、他にも選択肢があったのではと思うのですが、なぜ大広だったのですか?

奥谷:それは、そこに岩井さんがいたからです。僕は長いこと一つの会社にもいたので、誰も知り合いもおらんとこで仕事するよりは、そこに信頼できる人がいるってことがすごい大事。会社名はどうでもいいんです。岩井さんみたいな姿勢の広告会社の人はあんまりいませんよ。あと、やっぱり自分の得意なこと、自分が一番いいと思えることだけをやりたいんで、そういうのも大広は自由でやりやすいですよね。その場を、安藤さん(大広取締役専務執行役員)がつくってくださった。

—そんな岩井さんと奥谷さんが立ち上げた「株式会社 顧客時間」では、チャネルシフトが事業の柱となると伺います。これについて、詳しく教えてください。

奥谷:多くの会社はこれまで、常に「新規顧客を獲る」ことばっかり考えてきたけど、僕たちは新規も既存も含めて、顧客をすべて可視化します。既存の顧客は誰か、その中でつながっている顧客は誰か、そしてつながっていない顧客は誰か。その上で、顧客との時間を見直す。今の時代、顧客はオンラインとオフラインを行き来した買い物行動をとっていますよね。そんな環境の中で、どういうカスタマージャーニーをつくり、そこにどんな場としてのチャネルを用意すれば、顧客との対話を築けるか。「顧客時間」のフレームワークを通せば、オンラインとオフラインの両方の場がちゃんと見えてくるんです。
そうやって見出した良質な顧客に、どんな「顧客時間」を提供するのか。この設計ができれば、顧客を理解した上での次の事業成長を、つくっていくことができます。

奥谷孝司

岩井:我々のフレームワークのひとつに、「エンゲージメント・エンジン」というものがあるんですけど、これは顧客に対して何ができていて、何ができていないかを、まず洗い出すためのもの。そこから我々の顧客は誰か?その顧客にどういう体験をつくっていくか?そのためにどんなお店があって、さらにデジタルを使うとどういうことができるのか?という一連の流れを併走してつくっていくんですけど、これはすごく距離が長い話なんですね。そしてそこには、とても多くの部署が関わることになる。

今はそれぞれの部署が、「部分的には、やっている」という状態が多いと思います。でも、それらの点が一つの「顧客時間」という線にはつながってない。それは企業にとって大きな課題だけど、組織は今の業務を効率化するためにできているものだから、どうしても起こってしまう問題。なので、そこに我々が横串を通して一つのストーリーを一緒に描いていく。顧客基点で全ての活動の点を一つの線につなげるということが、企業にとって大きなソリューションになるはずです。

奥谷:今、小売業界を見ててもすごく思うのは、「優れた場」づくりをしていたり、お客さんと真摯に向き合っていたりする会社って、むしろ地方にあるんですね。例えば、地方でスーパーをやっていて毎日顧客が減っていくという、経営者も従業員も切実な場合がある。東京のようにいっぱい人がいるわけでもトラフィックがあるわけでもない。そんな中で、インバウンドに活路を見いだすだけではなく、地元の顧客に真摯に向き合う会社もあるわけです。そういう会社は、デジタルを活用できる可能性があるし、力もある。だから、もしデジタルへのシフトや、それによる「優れた場」をつくりたいんだっていう思いがあれば、顧客時間に声を掛けてもらいたいですね。
地方に限らず、本気で「自分たちの顧客に向き合い、顧客を理解したい」という企業なら、事業規模も問いません。僕は小売業に長くいて、事業会社で顧客と向き合ってきた人間なので、そういう小売りの体験も活かしてもらえる。「本気で顧客に向き合いたいんだったら、ぜひ連絡してください」と思います。

—今回のお話では、「顧客に向き合う」がポイントだと思われます。「株式会社 顧客時間」としては今後、大広にはどう向き合っていきますか?

岩井:顧客時間は使命の一つとして、「事業の社会実験」もしていきたいと思っています。社会課題を事業で解決することを、多くの企業がこれまで以上にやろうとしている。その中でも我々は、大広の子会社とはいえベンチャーなので、それもやっていきたいなと。そしてそれは、一緒にやりたいっていう人たちとのネットワークでおこなっていきたい。それが結果的には大広の新しいチャレンジをつくることになるし、そこに人材が集まってくることになると思います。

奥谷:僕はいい意味で、「大広から遠い会社」でありたいと思います。いわゆる大広が持っているコア事業とはパッと見、ちょっと遠く見えたいなと。「この会社、なんだろう?顧客時間ってなんなんだろう?」と気になって、そこから考えていった結果、「あー、これ大広のグループ会社なんだ」みたいになりたいなと思うんですよね。
この会社のポイントは、チャネルを変えて顧客とのつながりをつくることですから、徹底してまずは事業会社の「顧客」に寄り添う。そして、事業会社の経営に寄り添って、最終的には大広のグループ会社として貢献できるようにしていきたい。
大事なのは事業会社の経営からではなく、その先にいる顧客から見て、そこから事業を回していくこと。その方が遠いようだけど「良いビジネス」になるよっていうことを、証明する会社になる必要があるんじゃないかなと。
あと、何度も言いますけど、大きい会社だけをやるんじゃなくて、小さい会社も応援したい。場合によっては自らが小売業をやるかもしれないし、自らが事業会社をつくってもいい。岩井さんと、そんな話をしています。それを面白いなと思って、参画したいっていう人が増えたらいいんちゃうかなと。

奥谷・岩井
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