Vol.34 Printing Share on Facebook Share on Twitter

成長活動ファンドから新たな大広の強みを目指して。
FemTech /FemCare領域へのチャレンジ。

大広の「人の成長が財産」という考え方を体現するために2017年度に始動した「成長活動ファンド」。起案者が取り組みたいテーマを掲げ、集まったチームメンバーと半年間活動する。スタートからの4年間で応募件数は171件、応募社員数は599人にのぼり、ファンドから大広全社での取り組みとなった活動もある。2020年度の投資対象に選ばれたテーマのひとつが「FemTech/FemCare」。女性の健康にフォーカスしたテクノロジー・ヘルスケア領域で2025年には5兆円規模への成長が予測されている。同テーマの成長活動ファンド起案者の平野氏、大谷氏を中心に、集まったメンバーに活動の振り返り、大広との親和性や今後の可能性などを話してもらった。

左:東京第1ブランドアクティベーションプロデュース本部 顧客価値デザイン局 大谷 拓 
右:ブランドアクティベーション統括本部 ビジネスインキュベーション局 平野 陽子

— 起案者のおふたりからエントリーまでの経緯をお願いします。

平野:まず簡単に市場のお話を。FemTech/FemCareは2012年ごろから使われている言葉です。月経・産前・産後・更年期などの女性特有のつらさ、感じる“不”を緩和するために様々な商品やサービスが生まれています。参入企業も急増していて、日本でも成長が見込まれている領域ですが、日本では月経に領域が偏っていて、更年期領域は手薄。さらに、この切り口で顧客に向き合ってマーケティングにのせられる人はまだ少なく、アイデンティティが混ざるデリケートさもあって多くの企業が商機を掴めずにいる状況です。
大広はそれらの解決のための人材が揃っていますし、エルダー/シニア知見もある。成長活動ファンドではライフステージの変化をこれから迎える世代と更年期世代の“不”を調査やインタビューで深掘りし、デリケートなヘルスケアを扱う際の姿勢やアプローチするスキルを大広に浸透させたいと考えました。その先は顧客との協創へつなげていきたいです。

大谷:FemTech/FemCareについては、平野さんと話をしていて、伸びていてる注目の領域だから勉強したいと思っていました。もともと「女性の方々って、なんでこんなに冷え性なんだろう」とずっと疑問に思っていたことがあって、きちんと知っておくことが大事なんだろうなということが、まず始まりとしてありました。昨年度は「ビジネス志向の体内化」という成長活動ファンドのチームに参加したんですが、その時にある外部講師の方から「おもしろがり力」という言葉をもらったんです。「いいなと思ったら飛びついて行こう」という意味で。それもあって平野さんと起案者になり、エントリーしました。

— 起案者が女性と男性ですし、年齢の幅、セクションもそれぞれ違うし、バランスがいいですね。

大谷:成長活動ファンドは起案者があらかじめチームを作ってエントリーするのではなく、テーマに共感した社員からメンバーを広く募るスタイルなんです。起案者が2人ともスタッフ部門でしたので、「プロデュース(営業)の人も参加してくれたらいいね」と話していたのですが、大阪のメンバーもいるし、本当にバランスが取れていますよね。今日は仕事の都合で残念ながら欠席なんですが、僕以外にはプロデュース局の磯部さんという男性がチームにいます。

平野:磯部さんは別の社内研修の時にお会いしていたんです。その時、子育て中の母親が主なターゲットの商品を担当されていて、「場面が浮かばず、わからないことが多くて…」と悩まれていたんですよね。性別の差があることで理解しづらい、デリケートで話しづらいってことは男性にも女性にもあること。だからどちらの性別でもできるようなかたちにしたいと思って起案したというのが1つ。あと、大広にはFemTech/FemCareというかたちではなくても、その領域に取り組んでいる人や興味を持っている人がすでに大勢いるのもありました。メンバーの今井さんも2011年頃から更年期市場に携わっておられたし、柴田さん、勝冶さんもぜひ参加したいとメールをくれました。集まるべき人が集まって、チームになったという印象です。

— 先ほど日本では更年期領域が手薄とのことでしたが、なぜなんでしょうか?

大谷:日本では現時点でFemTech/FemCareのスタートアップが100社ほどですが、起業しているのが20代・30代の若い女性が多いんです。「想いファースト」といいますか、ご自分の悩みや持っている課題意識がビジネスの発端になっていたりするので、起業家が当事者世代でない更年期領域、後はメンタルヘルス領域も日本では手薄な領域ですね。若い起業家の「私がこんなに悩んだんだから、みんなの役に立ちたい」という想いは尊重しつつ、それをどうビジネスとして世の中に広げていくのか。マーケティングの目線は、他者からのサポートが必要な部分があるので、そこに広告会社の力が役に立つと思っています。

— その他、日本市場の特徴や注目の動きがあれば教えてください。

平野:海外ではスタートアップが圧倒的に多いんですが、日本では大手企業が社会課題に向き合おうというスタンスでFemTech/FemCare領域に参入されるケースも多いです。検査キット系のスタートアップがかなり出てきています。ホルモン検査、妊孕性など妊活領域の検査キットも今後広がっていきそうですね。現在、コロナ禍ということもありますが、それが収束したとしても通院せず自分の身体の状態を知ることができるので、忙しい女性にはとても便利だと思います。生理用品は群雄割拠。使い心地がいいものだけが残り、新しいコンセプトのものが出てくるなど、市場として成熟していくと思います。2021年春夏はGU(ジーユー)が生理中にナプキン不要で使える吸水ショーツを販売するのも大きなトピックスです。

— 「ゼロから分かる!FemTech/FemCare」と題して、社内ウェビナーを開催されました。

大谷:ウェビナーはファンドにエントリーする際に、社内への情報共有会としてコミットしていたものです。FemTech/FemCareの基本情報や我々の活動を知ってもらって、新しい提案をするヒントにしてもらえればというのがそもそもの始まりです。当日はFemTech/FemCare企業の方々をお招きして、お話もしてもらいました。参加者は97人。半数近くは男性の参加でした。人数も想定していたより多かったですし、男性が多いのもうれしかったです。

平野:大広の男性の場合、健康食品など個人の “不”に関連する商材を担当した経験のある人が多くて、「どう対応したらわからないけど、どうすればいいんだろう」とストレートに口に出してくれる。私は転職を経験していますが、これは他の会社にはあまりないことだと感じます。空気が違う。個人の“不”を扱うことに慣れている。健康というテーマは男性にも女性にも関わること。FemTech/FemCareで得た成果は、社会の成果でもあるし、男性にも応用していける。この発想で話をしていけば、しっかり話を聞いてくれる人ばかり。FemTech/FemCare領域に挑戦するにはとても有利な環境だと思います。

— セミナーの後のワークショップはどのような内容だったのですか。

今井:ワークショップには15人ほど参加してくれました。大広/大広WEDOの女性社員のインタビューや一般生活者1200名の調査をベースに、生理、PMS(月経前症候群)、産後に伴う身体の変化、更年期、その他のカテゴリーごとに、女性の声を記載した“不”のモーメントカードを作成したんですね。その中から1枚選んでもらって、それがクライアントの課題にどう結び付くか、どんな風に取り組んだら提案していけそうかを考えてもらいました。

大谷:先ほど平野さんから「大広の社員は“不”を扱うことに慣れている」というお話もありましたが、「この“不”はチャンスがありそうだ」という目利きができる方が多かった印象です。質問も「スタートアップ企業とはどんな風にやっていけばいい?」といった具体的なものが結構挙がっていました。質問にチームメンバーがざっくばらんにお答えするなど、ディスカッションをしました。

— 1200人の生活者調査、独自に制作した “不”のモーメントカード。これ自体がすでに財産ですね。

今井:例えば「生理痛が酷くて何もできない。けど、生理休暇なんて使えない」というカードには、下部に「生理休暇を利用したことのある人4.8%」とありますが、こちらの数字は私たちが行った調査から出たもの。その結果をみて、それがどういうことかを女性の声にしてカードに記載しました。

大谷:声は社内インタビューや生活者調査のフリーアンサー欄からピックアップしたり、メンバーで洗い出したりしました。ファンドメンバーの年代構成が分かれていることが、カード作りにも功を奏しました。一般生活者の調査についても1200人規模で、ここまで細かく身体の変化や年代での違いをウォッチしている調査って、世の中にほとんどないんですよ。

平野:貴重です。来年度も、それ以降も定期的に調査をして定量・定性の変化を捉えていければと思ってます。

左:ブランドアクティベーション統括本部 ブランドアクティベーション人材開発局 今井 麻恵
右:ブランドアクティベーション統括本部 大阪顧客発掘局 勝冶 舞

— 参加された方からの声で、印象に残っているものはありますか。

大谷:ウェビナーではFemTech/FemCare全体を俯瞰している1社と、領域に特化している2社の計3社をお招きし、話をしていただいたのですが「逆に勉強になりました」というメールをいただいたことに驚きました。全体を客観視する会社さんとターゲットを絞って狭く深くみつめる会社さんが一緒に何かをやるということが意外と無いようなんです。鳥の目・虫の目、両方の視点からFemTech/FemCare領域を語れたのは、ひとつの成果だったかもしれません。

平野:登壇いただいた会社さんから「企業の中で新しいことをやる時には、大変なことが多い。でも、やっていく価値があることなら、手を組んでやっていけたら」という言葉をいただけました。そういう前向きな企業と前に進んでいければうれしいなと思っています。クライアント含めて。

勝冶:社内からも、初めて知った、新鮮だった、面白かったなど、良い反応が返ってきています。事後アンケートをとったのですが「興味あります!」「新たなチャレンジですね」とみなさん前向きな感じでした。これまではただ知らない領域だっただけで、この世界に触れていただいたことで「できたら相談したい」「チャンスがありそうです」と積極的な声をいただけてうれしいです。

— 既存の商品・サービスもFemTech/FemCareで捉え直すと、違ってみえてきそうですね。

今井:それでいうと、身体的な“不”を解決するだけではないんですよね。この領域はいろんな業種の、いろんな商材カテゴリーに関わってきます。例えば、保険・金融関係の商材だと、不妊治療保険などはFemTech/FemCareといえますよね。

大谷:デリバリーだって「生理痛や更年期で食事を作るのが辛いから、今日は出前に頼ろう」という視点なら広義のFemTech/FemCareです。他にもエイジング化粧品であれば、「女性ホルモンの変化による肌の不調をケアする商品」と捉えると、併せてサプリメントを提案する発想が出てきます。これまでは得意先目線でやっていたことも、使う女性目線での活動に変わっていく。いい変化だと思います。

平野:新しいテクノロジーやサービスを出すことって、その商品やサービスの新たなスタンスを示すことでもあり、マーケティングの一貫になっている。この領域に限ったことではないですが、私たちがFemTech/FemCareを学び、追っている中で強く感じたことです。
マッチングやコーディネートの部分であったり、既存の商品の捉え方を一新したり。特にそのあたりで、大広がお役に立てるのではと思っています。更年期の領域でも、やがて対象の女性は入れ替わっていき、下の世代が持ち上がってきます。その時に価値観ってどんどんアップデートされていくので、その中でどうやって顧客の“不”に対して打ち手を作っていくかみたいなところで座組を作っていければと考えています。

— FemTech/FemCareを語る時には、「捉え方」「目線」がキーワードですね。

大谷:大広は「顧客起点」「顧客価値」という言葉をずっと使っていますが、顧客第一、つまり生活者を起点に考えています。女性が抱える“不”やゆらぎに関して、このチームメンバーはインプットがかなりできたので、次は同じ目線を社員に持ってもらって、アウトプットに移る段階ですね。

左:ブランドアクティベーション統括本部 東京顧客発掘局 柴田 笙子
右:大阪ブランドアクティベーションプロデュース本部 統合プロデュース局 磯部 智一

— 大変デリケートな領域ですが、関わる際の心構えを教えてください。

大谷:まず「誰もがオープンに話したいわけではない」という前提に立つことが大事です。身体や気持ちの変化、向き合いはそれぞれ違いますから、「カムアウトして、みんなに話せばハッピー」ということではない。もう1つはきちんと知っておくこと。女性の身体にどんな変化・症状があるのかがわからないから、男は触れないでおこう、怖いとなってしまうんです。この2つの前提に立っていけば、必要な議論は自然と進んでいくのではと思います。

平野:男性も女性もすべての人がすべての場所で強いわけじゃない。自分も相手も、デリケートなところがあるし、何かしら弱いところがある。その発想で取り組むと、アイデンティティの戦いにはならないし、腫れ物に触るみたいにもならないはずです。

大谷:社内アンケートをとった時に「会社にどうして欲しいですか」という声が出た時、「みんながみんなの身体のことを思いやれば、働きやすくなる」という声が出てきたんですよね。女性も男性も、一般社員も管理職も関係ない。これが真ん中にくる「顧客価値」になるのかなと。

今井:そう。利己性でなく、“利他性”。これがこのカテゴリーで一番大事。

— 誰かを思うことって、やがて自分に返ってくるのかもしれないですね。

大谷:この領域は健康経営との親和性もとても高いと思っていて、インナー向けの活動として使える面もあると思っています。女性はもちろん、男性も含めて働くみなさんが働きやすい環境をFemTech/FemCareの目線で整えていく。我々はコーポーレートの方々とも連携をとって、繋がっていけたらと思ってます。

柴田:男性が女性を知る、またその逆も重要ですが、同じ女性でも年代が違えば悩みや症状も全然違います。同じ年齢でもPMSの症状や重さ、深刻さも様々で。調査結果をみて「こんなにつらい人がいるんだ」「これも更年期の症状なの?」と多くの気づきがありました。同じ性でも人それぞれに違う“不”があることを、ひとり一人が意識して、想像できるようになれば、もっとやさしい世界になるのかな、働きやすい会社も作れるのかなと感じます。

— 人の“不“を知る。そこがFemTech/FemCareの根っこなんですね。

平野:その“不“を抱える人には自分も入ります。知らず知らずに我慢しちゃっていることがあるはずです。
FemTech/FemCareは取っ掛かりであって、いまはMenTechといって男性のものもあります。これから様々な個人の“不”を咀嚼して満たしていく企業を、私たちがお手伝いしていくという価値観でこの領域をみていただけたら、と。「男は弱音吐いちゃいけない」みたいな思い込みも生きづらさにつながる。頑張りすぎている自分を認識できたら、そこが次のビジネスチャンスなんですね。社内の人には「これもFemTechかな?」という感じで気軽にお声がけしていただきたいです。

勝冶:調査では8割の人が何らかの不調があると回答しています。生理前だとイライラや過食で自分を責めてしまう人が多いんです。「またやっちゃった」「がんばりが足りない」って。そうじゃなくて、ホルモンの影響なので、それを自覚して、ある意味「しょうがない」と割り切って、何かに頼るという風にできれば、すごく楽になれると思います。生理って憂鬱なイメージしかなかったのですが、頼れる商品やサービスがどんどん開発されているので、知って使えれば、もっと楽に生きていけると思います。私もチームに参加するまでは生理用の給水ショーツの存在を知りませんでした。良い商品やサービスがあっても、知られていないことってまだまだ多いので、もっと広めていきたいですし、ひとりひとりの女性の不に寄り添える提案をしていきたいです。

今井:大きいカテゴリーでくくると同じでも、つらさはみんな微妙に違う。それを解決する抜け道、自分に合ったものを知る権利は誰にでもあります。企業としては顧客の 、そして雇用主としては従業員の“不”に向き合い、快適さを提供していただけたら。快適と幸福がセットで訪れるといいですよね。そこを私たちがバックアップしていければと思います。

— 成長活動ファンドとしては3月で一区切りを迎えますが、平野さんから最後に一言お願いします。

平野:6人で知見を溜め、深堀をしてきたので、何らかのかたちで活動を継続していきたいです。次は「知る」から「実装」のターンになるかと思うので、実際に様々な取り組みにつなげ、社外にも発信して大広の強みにしていけたら嬉しいです。FemTech/FemCareは幅が広く、様々なチャレンジができる柔軟性があります。大広のクライアントと相性がいい領域はまだまだブルーオーシャンですから、みんなで掘っていきたいです。デリケートなヘルスケア領域を大広の新たな武器にしていきましょう!

Daiko WEDO DAIKO SUMMER CAMP FES AD+VENTURE 博報堂DYホールディングス “生活者データ・ドリブン”マーケティング通信 Daiko Tokyo Office