Vol.33 Share on Facebook Share on Twitter

社内でもまだ数例の「男性の育休」。
でも、あまり大ごとに考えず取りました。
顧客価値デザイン局 戸舘 永路

有名人の育休宣言、男性育休に関する書籍やブログなど、男性の育児休業が話題にのぼることが少しずつ増えてきたが、みなさんの身近に育休を取得した男性はいるだろうか。厚生労働省の2019年度の調査では、育児休業を取得したのは女性83.0%に対し、男性は7.48%*となっている。同項目の調査を開始した1996年度は0.12%だったことを考えると、確実に男性の育休取得者は増えているが、政府が目標に掲げている「2020年までに13%」には届いていない。大広でも男性が育児休業を取ったケースはまだまだ珍しく、数えるほどというのが現状だ。そこで第一子の育休から仕事に復帰したばかりのコピーライター 戸舘永路氏に、育休を取るまでの経緯や取得した感想などを聞いてみた。
* 令和元年度雇用均等基本調査(厚生労働省)

— お子様の誕生、おめでとうございます! 育休期間を終えられて、先月職場に復帰されたそうですね。

戸舘:2020年10月下旬から1月中旬まで仕事を休んでいました。昨年は環境大臣の小泉進次郎さんや芸人の古坂大魔王さんが育休を取ったし、世の中的に、男性も育休を取ろうといった流れがきていたことも、僕にとってはラッキーだったかもしれません。お正月のドラマ「逃げ恥スペシャル」でも男性育休のエピソードがありましたよね。細かいのですが、育児休業としては1か月ほどが該当して、前後は有給休暇や代休を使いました。1月中旬から仕事に復帰していますが、今はコロナもあってリモート勤務が中心です。あまり大ごとには考えずスルッと育休に入って、スルッと戻ってきた。そんな感じです(笑)

— スルッと、ですか。では、育休を取るにあたってはあまり深く悩まずに?

戸舘:そうですね。妻の妊娠がわかった時から、育休は取ろうと思ってました。仕事のチームの人たちとか、周りが許してくれたら取りたいという軽い感じで。妻もフルタイムで自分と同じくらいか、それ以上にタフに仕事をしてきたし、結婚後もずっと共働き。家事はできる方がやると決めて2人でやってきたのに、育児が妻だけの仕事になるのは違う気がして。育児は子供の命に関わることなので、家事と同じように考えるのは違うのかもしれないですけど。「よく決断しましたね」と言われることもあったのですが、僕としては男性の育休も制度としてちゃんとあるんだし、取ることは自然な流れだと思ってました。うちの会社の男性で育休を取っている人が、まだほとんどいないことは後で知ったくらいなんです。

— 「育休を取る」と言った時の周囲の反応はどんな感じでしたか。

戸舘:妻と相談したわけでもなく、僕が勝手に取る気満々でした。妻に「育休取るよ」という話をしたら、「うれしい」と言ってくれましたが、その時は正直、妻も僕自身もあまり実感が湧いていなかったです。育休は本当に取ってよかったですし、「もし取っていなかったらどうなっていただろうか」と思うこともあります。うちの親父に育休のことを話したら、半笑いで「休んで何をするの?」と言われました。親父って育児については何もしてこなかったんだな、と思いました。育休の話をした時の反応で、育児に関わってきたかどうかわかりますね。
会社には安定期に入った頃、上司に話をしました。以前の部署でもお世話になった方で、働くママでもあるので、まずその方に最初に報告と親になることの相談をしました。「おめでとう!」と言ってもらったすぐ後に、育休の話を切り出しました。その場ですぐ「育休、いいじゃない!」と言ってくださって。きっとその後、僕の知らないところで、調整なども含めて、あれこれ動いてくださったんだと思います。現場のメンバーも育休に賛成してくれましたが、僕が抜ける間、仕事がうまくまわるかどうかについては少し不安に感じていたかもしれないですね。

— 育児休業と有給・代休で合わせて約3カ月。期間の長さは、どうやって決めたんですか。

戸舘:まとめて有給休暇を使ったりもできない性格だったし、何カ月も仕事を休む自分を想像できませんでしたけど、育休については思い切って。男性の育休の場合は、出産当日から子どもの1歳の誕生日前日までが対象期間なんですが、1年近く休む方はほぼいらっしゃらないのではないでしょうか。男性だけの制度として子どもが生まれて8週間以内に育休を取ったら2回目も取れる※と聞いたので、それを見越して、当初は8週間=2カ月取る予定でした。でも、妻の産後の回復が思わしくなく、立って歩くのもつらそうで、見ていられませんでした。産後2カ月以降もその状態は続いて、精神面も不安定だったので、有給を使うかたちでプラス1カ月、合計で約3カ月休ませてもらいました。
* 介護・育児休業法で「パパ休暇」と呼ばれる制度。生後8週間以内に育児休業を取得・終了した場合に利用可能。

大広 東京第1ブランドアクティベーションプロデュース本部 顧客価値デザイン局 戸舘 永路

— 長く仕事を離れることには、特に不安はありませんでしたか?

戸舘:不安には、2つあると思うんです。1つはキャリアや出世といった自分自身のこと、そして、もう1つは育休で自分が抜けることでチームのみんなが大変になるんじゃないかということ。1つめは特に気にしなかったんですが(笑) 後者については忙しい部署で僕1人抜けるだけでも結構影響が大きいので、不安に思ってはいました。そのことは自分が悩もうが悩むまいが同じなのですが、自分の中でどう整理をつけるかを考えました。たくさんの育休の本を読みましたし、男性で育休をとった人のブログを読んだり、調べ物もいろいろしました。
その中で自分の中で一番しっくりきたのが「育休には業務の“属人化”を防ぐメリットもある」という考え方。業務を個人が抱えていて、その人がいないとわからないブラックボックスの状態に陥るのは職場としてはよくない、と。取らせていただいた立場からいうのもなんですが、事故や急病と違って、育休はあらかじめ計画が立てやすいので、事前準備がしっかりできる。担当業務の洗い出しをして、休業中にお願いすることをチームに共有して、引き継ぎを行いました。普段から自分の業務報告はしていましたが、実際やってみて初めてわかることもありますね。仕事に復帰してからのうれしい誤算としては、後輩が思っていた以上に大きく成長していたこと。とても頼もしくなったので、甘えないよう自分を律しているくらいです。

— 後輩がすっかり頼もしくなって。ご自身は、父親になってどう変わりましたか。

戸舘:以前はさほど子どもが好きではなかったんですが、すっかり変わりました。街ですれ違う子どもはみんなかわいいし、あらゆるお父さんお母さん偉い!と思うようになりました。 子どもが生まれたことで、子育て世代や子どもの幸せに貢献するような仕事に携わってみたいと思うようになりましたね。子ども番組制作や、育児を応援する商品・サービスに関わりたいとか、そんなことも夢見ています。


あと、育休明けの研修、男は僕だけでしたが、そのセミナーがすごく楽しかったんですよ。講師の方が、育児中など働く時間に制約がある人材のキャリア形成をテーマに話されていて、「働くことには誰しも、何らかの制約がある」といった内容だったんですが、とても興味を持ったので、先生の会社にメールをしてその分野の書籍やセミナーを紹介してもらいました。うちの親父は定年後、知的障がい者の方が働く作業所を経営しているのですが、障がいのある方の社会参加や子育てとキャリア形成などの分野に興味を持ちました。まだ本を買っただけなんですけど、勉強していきたいです。

— この先、育休を取りたいと思っている男性に何かメッセージをお願いします。

戸舘:それぞれ考え方も状況も違うので、育休を取ろうと思ってもいない男性を説得することはできないです。するつもりもありません。ただ、将来取りたいと思っている人の背中を押すことならできるかもしれない。男性の育休は会社の制度ではなく、国の制度。だから、取りたいと思う人は深刻に考えすぎず、ぜひ取ってほしいです。僕の場合は悩まずスルッと取ってしまったし、仕事仲間のサポートにも恵まれましたが、長く休むのが難しい方は短い期間でもいいと思います。産後2カ月間は本当に辛かった。細切れの睡眠に、泣き止まない子ども。かわいいと思えない瞬間すらありました。育児の最も大変な時期に、その大変さを夫婦で共有できました。妻は赤ちゃんと居ても、2人という感覚ではないはず。でも、そこに僕が居れば2人。会話ができるし、愚痴を言える。家事が苦手な男性は、側にいてパートナーの話を聞いてあげる。それだけでもいいんじゃないでしょうか。男性の育休が特別なことじゃなく、生活の当たり前に。いつかそうなることを願ってます。

— 大広では戸舘さんに続いて、2名の男性が育休取得予定だそうですよ。

戸舘:それはうれしいですね。今回、このコラムに出るにあたって“夫の育休”ということで妻のコメントもお願いします、ということだったので、彼女からメッセージを預かってきました。妻を知っている人にとっては「あの明るい人が、こんなに思い詰めて…」と思う内容かもしれませんが、そのまま掲載していただくことにしました。男性が育休を取ることを話し合ったり、考えるきっかけのひとつにしていただければと思います。


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