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「気持センシングラボ」対談 第1回
身体の反応から顧客の「本当の気持」を捉える

人々の行動を促しているのは、言葉にならない「気持ち」や「思い」である──。そんな仮説のもとにスタートしたプロジェクトが「気持センシングラボ」です(ご参考:プレスリリース)。動画広告を見た生活者の脳波や視線の動きなどの身体反応を調べることで「気持ちのいい動画」「気持ちのいい広告」「気持ちのいいメディア」の実現を目指す実証実験の準備が着々と進んでいます。「気持センシングラボ」対談第一回では、プロジェクトの中心メンバーである大広の山口大道が、このプロジェクトの成り立ちやコンセプトについて、博報堂DYホールディングスの島野真と語り合いました。

本記事は、博報堂DYグループ“生活者データ・ドリブン”マーケティング通信に掲載されたものを転用しています。

島野真・山口大道
右 :株式会社 博報堂データドリブンマーケティング局局長代理兼株式会社 博報堂DYホールディングス 島野真
左 :株式会社大広 東京アクティベーションデザインビジネスユニット カスタマープロモーション局デジタルプロモーショングループ プロデューサー 山口大道

好きなものほど
買っている理由がわからない

島野:山口さんが大広に入社したのは3年前だそうですね。

山口:2015年です。入社以前は大阪の広告会社でデジタルマーケティングを担当していました。今はカスタマープロモーション局というところに所属していますが、「枠組みを超えていく」をテーマに、専門性にとらわれずいろいろなことにチャレンジしています。

島野:「気持センシングラボ」もそういうチャレンジの一つですね。このプロジェクトを始めたきっかけは何だったのですか。

山口:昨年の3月頃に局内で動画広告プロジェクトを立ち上げる動きがあって、そのテーマを探る中で見えてきたのが、「最新のテクノロジーによって人間のノンバーバル(非言語的)な気持ちや思いを捉えて動画配信に生かす」というアイデアでした。
以前、日本マーケティング協会のマーケテイングマスターコースで「顧客が継続購買をする理由」というテーマで論文を書いたことがありました。タイトルは、「好きなものほど、買っている理由がわからない」にしました。他の方は、比較的真面目なものが多い中、少しキャッチ―に(笑)。実際にアンケート調査をしてみても、購買理由を明確に言語化できないケースが多いんですよ。だから行動の理由を探るには、「言葉」ではなく脳や身体の「反応」を検証する必要があるのではないだろうか。そう考えたわけです。

山口大道

島野:なるほど。最新のテクノロジーを使えばそれができると。

山口:そうです。現代のテクノロジーには人を置き去りにしているところがあると、僕は前々から感じていました。もっと人を深く理解するためにテクノロジーを使うべきなんじゃないかって。
例えば、ビッグデータを使って広告効果の最大化を目指す。それはもちろん意義のある取り組みだと思いますが、ビッグデータは人々の行動の結果生まれるものですよね。では、人はなぜそのような行動をしたのか。そこには、着眼点というか、想像力が必要だと思います。

島野:ビッグデータの解析から「相関関係」はわかっても、「因果関係」を明らかにするにはマーケッターによる解釈が重要ですよね。

山口:ええ。おそらく、行動の理由は生活者自身にダイレクトに尋ねても明確にはなりにくいと思います。なぜなら、多くの人々は、深く考えずに無自覚にいろいろな行動をしているからです。ならば、テクノロジーを使って人の脳や身体に直接聞いてみればいい。まさに人の奥深い思いを知るためにテクノロジーを活用するということです。

脳波、視線、発汗──
人間の身体反応が語るもの

島野:実証実験は具体的にどのようなやり方で進めるのですか。

山口:被験者に動画広告を見てもらって、脳波を測定するというのが一つです。しかし、脳だけにこだわっているわけではなく、視線の動き、発汗など、いくつかの測定値を適宜組み合わせて実証実験を進めていくつもりです。
動画は既存のものとゼロからつくるものの両方を使ってみたいと考えています。その視聴から得られたデータに基づいて、動画にアレンジを加え、その結果を再び分析するというサイクルを回していきます。さらにその動画をプラットフォームで配信し、生活者の反応を広く確かめます。
動画のクリエイティブだけでなく、メディア環境や配信のタイミングなどによる反応の違いも調べる予定です。そこからどのような動画配信が人間にとって最も「気持ちいい」ものなのかが見えてくると考えています。

島野真

島野:マーケティングに脳科学を活用する取り組みはこれまでにも行われていますが、当時と今回の取り組みの違いはどのような点になりますか。

山口:今ならテクノロジーが発達しているだけでなく、コストも下がっています。また、インターネットで動画を流せるので多くのサンプルを対象にした広範囲な実験を行うことが可能だし、デジタルなので動画やメディア環境を作り直すことも短時間でできます。10年くらい前と比べると、はるかにPDCAのサイクルを回しやすい時代になっていると思います。

デジタル技術によって
エンゲージメントを高める

島野:プロジェクトの構成メンバーをお聞かせください。

山口:現在は、大広、SOOTH、ジーニー、ヒトクセの4社がこのプロジェクトのメンバーとなっています。大広内部、あるいは博報堂DYグループ内部だけで進めることにこだわらず、外部の優れた人たちと協力することによって、できることを増やしていく。それがこのプロジェクトの一つのコンセプトです。専門性をもったパートナーと一緒に仕事をすれば、広告会社である僕たちの能力も拡張される。一方、僕たちが持っている専門性を提供することで、参画パートナーの付加価値を上げることもできる。相互に補完しながら、それぞれの良さを延ばしていければなと思います。

島野:それぞれの会社の役割はどのようなものなのですか。

山口:大広の役割は、プロジェクト全体のプロデュースで、とくにパートナーの皆さんに情熱を伝え、モチベートしていくことに最も重要な役目があると考えています。SOOTHには、脳波や視線などのフィジカルデータを取得する技術を提供してもらいます。ジーニーは広告配信の優れたプラットフォームをもった会社で、それをこの実証実験用にカスタマイズしてもらいます。ヒトクセの担当は、動画配信システムと、動画に接触した生活者の行動分析です。僕自身の問題意識や構想などをこれまで時間をかけて丁寧に説明して、信頼関係をつくってきました。プロジェクトを進めていく中で、さらに相互理解を深めていければと思っています。

最適化サイクル

島野:このプロジェクトの成果は、マーケティングのさまざまな領域に応用できそうですか。

山口:そこはまだわかりません。チャレンジとして、「CPA(コスト・パー・アクション)」というデジタルマーケティングで多く利用されている指標に対し、「CPE(コスト・パー・エンゲージメント)」という異なる指標を提案していくことはできるのではないかということです。
デジタル技術を駆使して顧客にアクションを起こさせることだけを重視すると、「顧客のことを深く考える」という志向性がどうしても薄くなってしまいます。しかし、顧客の認知の傾向や深い思いを理解してエンゲージメントをつくっていくことができれば、すぐにコンバージョンにつながらなくても、ロイヤリティを確実に高めていくことができるはずです。

島野:生活者との長期的かつ本質的な関係を構築していくということですね。

山口:ええ。そこのうまいやり方が見つかれば、結果的にはCPAの向上にもつながることになります。

島野:CPAの向上だけを目指すと、マーケティング活動が部分最適に特化して矮小化してしまうという問題は以前から指摘されていますよね。

山口:この議論ってずっと続いているんですよ。視点を変えていかないと、みんなが疲弊していってしまう。だから、「やっても無駄かもしれない」というところまで大胆に視野を広げて挑戦していくことが必要だと僕は思っています。
デジタルを「顧客獲得の効率を上げるツール」とだけ考えると、結局、あの手この手を使ってコンバージョンさせることをみんなが目指すようになってしまいます。しかし、それが生活者にとって本当にいいことなのか。生活者にいい体験を提供できるのか。広告文化として本当にそれでいいのか。そこをもう一度考え直さないといけないと僕は思うんです。

「煙たがられる広告」から
「愛される広告」へ

島野:実証実験はいつから始めるのですか。

山口:できれば年明け早々、遅くても今年度中には実施したいと考えています。現在、何社かのクライアントにアプローチをしているところで、その調整が進み次第、具体的な実験の段取りを立てていく見通しになっています。
この実験はクライアントの協力がないと実現しません。プロジェクトの趣旨に賛同してくださるクライアント、それから一緒に実験を進めてくれるパートナー。その数をもっと増やしていけるよう、この取り組みの意義や魅力を広く伝えていきたいと考えています。

山口大道

島野:実証実験の結果が楽しみですね。

山口:成果を出すことが求められますが、仮に失敗したとしても得るものはあると考えています。何ごともやってみないとわかりません。やらずにいろいろと評論家的なことだけを言うのは嫌いなので、とにかくやってみて、だめだったら何がだめだったかを検証して、アプローチを変えて再チャレンジすればいい。うまくいかなかったとしても、それによって僕たちの判断力が強化されるのだと考えれば、やったほうが絶対にいいんです。マーケティングやコミュニケーションの仕事には、そういうマインドが必要とされていると思います。

島野:新たなデータを活用してマーケティングのアップデートに挑戦する、自分自身でやってみる──。そんなマインドですね。そこから新しいビジネスのアイデアも生まれるかもしれない。

山口:そう思います。効率に偏重しすぎているデジタル技術を、「人を深く理解する」というところで活用してみれば、その経験やプロセスを通じて、新しいアイデアの種や考え方が必ず生まれるはずです。
僕の一番根っこにあるのは、「広告をみんなに愛されるものにしていきたい」という思いなんです。現在の広告は、多くの人に煙たがられるものになってしまっていると僕は感じています。それを愛される広告に変えていきたい。そのためには、「人」にフォーカスすることが必要だし、人に「心地よさ」を提供することが必要です。このプロジェクトがそのきっかけになればいいと思っています。

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