Vol.31 Share on Facebook Share on Twitter

〈生きやすい〉をつくる。
人の“不”に向き合うことが商機につながる。
ビジネスインキュベーション局 平野 陽子

事業開発/実装における協業パートナーのプロデュースを行うビジネスインキュベーション局(以下BI局)。その中で、チーフプロデューサーとして、様々な変化を捉えるR&Dやグループ内外との関係構築、評判形成などを手掛けている平野陽子氏は、年始にラスベガスで開催された「CES 2020」に参加。現地で次世代テクノロジーと社会変化の兆しを感じてきた。それがどのように大広の武器や知見とつながっていくのか話を聞いた。
平野氏は金融・IT、デジタルエージェンシー、事業会社を経て、2019年に大広に入社。多彩なフィールドでキャリアを積んできた平野氏が感じる大広の魅力についても語ってもらった。

*CES(コンシューマー・エレクトロニクスショー)は50年もの歴史がある、世界最大規模のテクノロジーカンファレンス。家電見本市としてスタートしたが、現在はテクノロジーとイノベーションのイベントへと変化している。

── 最初に、平野さんが大広に来られるまでを簡単にお聞かせください。

平野:大学を出て金融業界で事務をしていましたが、適性ゼロだと気づいて、IT業界に。 人事・総務、広報、最後は広告営業をしましたが、webだけじゃなくてマーケティングの全体像を知りたくなって、デジタルエージェンシーに転職。webを使った企画やサイトのディレクションをしていましたが、徐々にクライアントとの距離の遠さも感じるようになってきました。意思決定や商品のLTVを考えるところに食い込めていないって。そこに食い込まずに提案を続けている限り、相手の的を射たものは出せないんじゃないかと。

── それで、大広へ転職する直近までいらした事業会社に。

平野:はい。LTVとPLが見たくて、玩具メーカーに入社しました。約6年の間、ECサイトのwebマスターからスタートして、商品の企画開発やloT商品の製作に携わるチャンスにも恵まれたのですが、メーカー故の「持つ者の辛さ」を感じました。製造責任もあり、アイデアや知識ではなく、もう必ず、どんなことがあってもモノ、立体物に帰着させなくちゃいけない。そして、その影響は色濃く、企業文化をも左右しています。

── 自社でモノやサービスを持っていない。広告会社は「持たざる者」ですよね。

平野:モノをつくっていない「持たざる者」の自由さしか知らないままではいけない、ハードな部分を知りたいと事業会社に転職し、とても勉強になりました。でも、私には1つの会社で、1つの仕事だけを突き詰めることには向いていない。プロジェクトごとにミッションがあり、アイデアを生かしてみんなで力を合わせていく、「持たざる者」の自由な世界に戻ろうと思ったんです。商社、コンサルという選択肢もありますが、広告会社なら「あなたのいいところを、出して行きましょう」「これは世の中を幸せにできる力があります」と、企業の背中を押す仕事ができると思ったんです。

大広 事業開発本部 ビジネスインキュベーション局 平野 陽子

── どんな会社、どんなモノやサービスにも存在価値がある、と。

平野:大広ではそれを「顧客価値」と呼んでいますが、存在している以上、その企業は誰かを幸せにしているし、役立っているんじゃないでしょうか。形を変えても生き残らなきゃいけない会社はたくさんありますし、その視点を持ち続けたい。大広が「顧客価値」に視点を置いていて、自分たちが立ち返れる場所があるのは、すごく良いことだと思っています。

── 「CES 2020」への参加は今年の平野さんの大きなトピックスだったと思いますが、
CESでのミッションや参加して感じたことなどを教えてください。

平野:BI局で私が行なっているR&Dやグループ内外との関係構築、評判形成などは、平たく言うと「大広の新たな稼ぎ方」をつくるため。CESでの私のミッションは、テクノロジーと社会変化の兆候を捉えて、大広全体の知見や武器にすること、事業開発の活動へつなげることです。CESでは有象無象の個人のちょっとした不調や不満など、人の“不”に対して、大企業が歩み寄っているな、という印象でしたね。育児で当たり前にしている我慢、シミなどの肌悩みといった個人的な問題を見過ごさず、商機につなげている。問題解決の技術を持つスタートアップ企業との協業や投資も進んでいます。アメリカでは“不”に寄り添うことが、きれいごとでなくマネタイズされている。それが一番の気づきであり、ブレイクスルーでした。

── 個人の“不”にフォーカスしたことが、お金になる?

平野:その部分はチャレンジしてみなきゃわからない部分でもあります。でも、それが将来の糧として企業に残るかどうかも、チャレンジでしか得られないので。いま稼げているところにだけに着地させるのは組織が組織であるためのやり方ではあるけど、私は会社って生き物だと思っているんです。誰かを幸せにするような価値を果たしていく会社はきっと生存していける。個人の“不”を満たすため、企業がどんどん脱皮していくことがお金になっていく。個人の原体験へのフォーカスとマネタイズ。それを投資環境が活発なアメリカでは強く感じました。

── “不”に寄り添う、向き合う。FemTech/FemCare、HealthTechの流れは大広にとってはチャンスですか?

平野:大広はコンプレックス系の商材の知見・経験もあって、コールセンターもグループ内にある。人の “不”に長年向き合ってきています。絶対に商機だと思います。女性の健康課題をテクノロジーで解決していくFem Tech/Fem Careから、さらにHealth Techに広げて見てみると、人が我慢していること、我慢できるんだけどずっと見落としていたことを、きちんと可視化してアプローチする能力を持っている企業って、世の中にたくさんある。そういったところに後押しになるデータをもって、「大広と一緒に打ち手を作って稼ぎませんか」と声をかけ、座組みをたくさんつくりたいし、来年は実際の案件として動かしていきたいですね。BI局が新規事業や今までと違う座組・役立ち方を開発し、「新たな稼ぎ方」をつくることは、いまある仕事、広告会社ならではの仕事をきちんと行う組織があってできること。バランスが大事です。双方が分断されていては意味がありませんし、クライアントに向き合うセクションの人とも積極的にキャッチボールし、社内の可能性や幅を広げ、協業できる形にしていきたいです。

── 「新たな稼ぎ方」をつくるには、アンテナを立て、広げていく必要がありますね。

平野:CESにはプレスパスで行く機会をいただきましたが、大広の社員として「大広はこっちの領域に興味があります」と発信していくことで、少しでも他の社員の人たちが使える糧につながればとの思いからでした。奇しくも、自分を一言でいうと「旗を立てる人」になりがちで。まだ開拓されていない場所を見つけ、既存の武器を捉えなおして進んでいくタイプ。制約や前提条件もなく他の人が躊躇して踏み出しにくい場所へ行くことには強い。インターネット広告も、SNSのマーケティングも、loTにも黎明期から携わっていますが「気づいたら、仕事が後からバズワード化してて、ここに着いちゃった」って感じで。

── 開拓していたら、着いちゃった(笑)

平野:これまでを振り返ると、私自身はiPhoneの日本語の予測変換がまだ出ないものをやることが多いですね。当時のloTもSNSもそうです。現時点だとFemTechはまだiOSも予測変換で出ないかな? 旗を立てて、開拓して、建物が立ち始めたら、その延長線上に目指すべき先が見つかって次の旗を立てにいくことになりやすい。特に、サービスや商品は愛を持って作るけど、手を離れて世に出たら、顧客のもの、社会のものとして育まれると思っています。loTのようにその言葉が一般的になる前に、それをみつけて、取り組むのが好きで得意だというのは、茨の道を好む、ある種の変人かもしれないですね(笑)

── 平野さんは探検家気質のところがあるのでしょうか。

平野:先ほど「顧客価値」の話をしましたが、顧客価値となる部分は、自分たちが進んでいくにあたっての北極星です。それを見つけ、常に心に持っていないと、仕事がブレます。北極星を見ながら進んでいく。私は「あっちがおもしろそう!旗を立てに行きたいので、協力してくれませんか」と声をかけるけど、隊長ではない。みんなでいい場所に行けるよう、なるべく嗅覚を働かせて、世にいるいろんな能力者の力を借りて一緒に進んでいく、そんな感じでしょうか。

── その能力者には大広の社員も、外部の方もいるかと思います。
平野さん自身はどのようにネットワークを広げておられるんですか?

平野:BI局自体がベンチャーキャピタルとのお付き合いがあるので、スタートアップ企業の情報はそこから得て、つないでいただくこともありますね。個人としては「1回関わった人はその人自体が資産」と思っていますので、定期的に自分の取り組み分野の話をNDAの範囲内でするなど、ご縁が切れないようにしています。社内外、年齢に関係なく、相手の方の良いところを見いだして、お互い対等でいることも大切にしていますね。あとは、同じ広告系だけでなく、事業会社サイドのマーケターやスタートアップの広報の方など、普段は直接仕事で関わらない、緩いつながりだけど相談し合える女性だけの50人ほどのグループがあるんですが、結果、提案依頼につながったことがありましたね。他にも、お仕事関係の先輩が甲子園の吹奏楽を愛でる飲み会を開催した際のFacebook Messengerグループがあるんですが、それがおもしろくて。笑えるSNSの投稿や変なリンクを送り合ってるだけなんで、コロナ禍で心の支えになりました。互いにくだらない雑談をしているうちに、仕事の相談ができたり。そういう緩く細いつながりが、だんだん力になっていくみたいなことは、あると思います。

── まさに「弱い紐帯の強さ」ですね。ちょっとした知り合い、友達の友達くらいの社会的なつながりが弱い人々が、新しく価値のある情報をもたらたす可能性が高いという。

平野:おもしろそう、楽しそうって思うことが、ブランドアクティベーションにつながっていくのかもしれないですね。いまお金に結びつくこと、自分に直接メリットがあることは大事ですから8割はそこに軸足を置くとして、残りの2割の気持ちを自分がおもしろがる、楽しいと感じることに持っていければ、選択肢が広がるのではないでしょうか。

── 転職を重ね、キャリアアップをされてきた平野さんですが、6社目となる大広や大広の人たちはどう映っていますか。

平野:大広にはいいところがたくさんあるのに、そこに気づけていないことが多いのかなと感じます。奥ゆかしいんですよ。控えめで芯がある。例えば、全社ウェビナーなどを開催しても質問する人が少ないから、事務局の人は「いつも質問が上がらないな」って思ってるはず(笑) でも実はその場でパッと反応する人よりもちゃんと考えていて、心にも残っている。よく考えている故の奥ゆかしさを感じます。あと、獲得系のクライアントやイチからブランドを立ち上げ育てるような案件を経験した人が多いからか、上澄みのおいしいところだけでなんとかしようとするのはカッコ悪い。そんなふうに考える人が多い印象です。

── 実務に対してきちんとやらなきゃ恥ずかしいよね、みたいな。

平野:「新しい価値観」と言って、コンセプトを打ち出すだけではなく、エグゼキューションに対する明確さを頭の片隅に入れて解像度高くプランニングできているかどうか。そこが差だと思います。大広という会社は、実直で芯がある。実際にそんな社員が多いですし。企業が人の “不“や辛さに向き合っていく時代、実直さは大事だと思います。大広には、相談したらちゃんと返してくれる人がいる。そう思われるだけでも全然違います。あとは、個人として誰かの力になれるような個人でいることが本業でもプラスになり、仕事にもつながっていくように思います。おもしろそうなところを見つけ、それぞれの得意を生かして、みんなでそこを掘っていきたいですね。

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