Vol.7 Share on Facebook Share on Twitter

「気持センシングラボ」対談 第3回
広告を好きになってもらい、商品の売上を伸ばしたい

生活者の気持ちをテクノロジーによって明らかにし、本当に気持ちのいい広告展開を実現する。そんなビジョンを掲げて進められている「気持センシングラボ」。協業によって進められているこのプロジェクトで、「配信」に関わる領域を担当しているのが、インターネット広告配信事業を手掛けるヒトクセです。同社の営業本部シニアスペシャリスト・齊藤学氏と、プロジェクトの中心メンバーである大広の山口大道の対談をお届けします。

本記事は、博報堂DYグループ“生活者データ・ドリブン”マーケティング通信に掲載されたものを転用しています。

山口 大道、齊藤 学
右:株式会社ヒトクセ 営業本部 シニアスペシャリスト 齊藤 学氏
左:株式会社大広 東京アクティベーションデザインビジネスユニット カスタマープロモーション局デジタルプロモーショングループ プロデューサー 山口大道

広告効率と商品の売上がリンクしない

山口:僕が齊藤さんと出会ったのは2年くらい前でしたよね。「気持センシングラボ」には、プロジェクトが立ち上がった段階から関わってもらっています。最初に、ヒトクセとはどういう会社か、あらためて説明していただけますか。

齊藤:ひと言で説明するのは難しいのですが(笑)、手掛けているのは、インターネット広告のクリエイティブと、広告配信の際に外部データを用いて制御するシステムの提供が事業の柱で、最近は広告配信のシステム自体も手掛けるようになりました。

山口:「外部データを用いて制御する」とは?

齊藤:外部データを制御するとは、最適なタイミングで最適な広告を配信する仕組みを構築することです。我々のサービスに「FIT AD」という博報堂DYグループのクラフターと一緒に開発したソリューションがあります。これは、人のターゲティングだけでなく、天気や気温といった外部環境データに基づいて、広告を配信するかどうかを決めたり、クリエイティブを入れ替えたりすることができるものです。具体的に言うと、某アパレルブランドでは気温17℃前後で秋服と冬服の売行きが変化するというデータがありました。そこで、17℃を起点として、異なるクリエイティブを自動で出し分けるといったものです。リアルタイムに着目し、最適な配信メッセージを実現した事例となります。結果として、広告による来店者比率が通常配信した他エリアよりも約1.2倍高い数値となりました。

山口:広告配信を独自の技術でサポートして、精度を高めたり、クリエイティブの表現をリッチにしたりする。そんなビジネスに取り組んでいるわけですよね。ヒトクセはエンジニアが多いので、ちょっとしたアイデアからすぐにプロトタイプをつくってくれたりするところが、とても魅力的だと思っています。フットワークが軽くて、新しいことにチャレンジしていこうという気概をみんなが持っている。そういう会社って、ありそうで実はあんまりないんですよ。そこに僕のヒトクセへの期待感があります。ヒトクセは気持センシングラボにどんなことを期待していますか。

齊藤:このプロジェクトで期待していることは、バイタルデータにて生活者理解を深めることで、デジタルマーケティングの新しい価値をつくれないか。そういったことを期待して参画しました。実際に、インターネット広告のKPIは「効率」であることが多いですよね。クリック率とか、クリック単価とか。でも、そのKPIをクリアしても、肝心の商品の売上が伸びないことがよくあるんです。特にこの2、3年、定量的な結果がどれだけよくても、売上とリンクしないという例を何度も見てきました。
では、広告のパフォーマンスを売上に結びつけるにはどうすればいいか。やるべきことは、生活者をもっと深く理解して、興味関心のポイントや潜在課題を掘り起こし、広告展開全体を設計し直すことだと思うんです。

齊藤 学

インターネット広告はどうして嫌われてしまうのか

山口:広告効率がいいということと、その広告が生活者に受け入れられて商品の購買につながることは別である。そういうことですよね。

齊藤:そうなんですよ。自社のセミナーやイベント等で1800人くらいの参加者を対象にインターネット広告に関するアンケートをしたことがあるのですが、95%もの人たちが「インターネット広告は嫌い」と答えていました。これはショックでしたね。

山口:もともと、インターネット広告の価値は、パーソナライズやOne to Oneコミュニケーションができるところにあったわけですよね。広告配信の精度を高めて、その人に役立つ情報をピンポイントで届けて、「こんな情報がほしかった」と思ってもらえる。それが実現できる広告手法であったはずなのに、なぜ嫌われるようになってしまったのでしょうか。

齊藤:一番の問題は、広告を配信する側、つまり、クライアントやメディアの都合が際立ってしまったことだと思います。クリック数をたくさん集めて、いかに生活者を囲い込むか。そこばかりに意識が集中してしまったということです。
もう一つ、デバイスの問題もあると思います。スマートフォンはいつも身近にあるデバイスで、そこに広告情報が次々に送られてくると、常に広告に追いかけられているようなストレスを感じてしまいます。これはテレビや雑誌ではなかったことです。

山口:広告が、ノイズになってしまっているということですね。あとは、「どうして自分のことがわかるの?」という気持ち悪さもあると思います。個人情報を抜き取られているんじゃないかという疑心をもっている人も、いまだに少なくありませんよね。

齊藤:一方で、「生活者と情報をマッチさせて広告を配信する」という方向性自体は間違っていないと思うんです。そのマッチングモデルを、クライアント視点やメディア視点から生活者視点に変えていくことができないか。それが僕の問題意識です。

山口:その問題意識は僕も同じで、それぞれビジネス上の立ち位置は違っていても課題感が近いということが、この1年くらいの話し合いの中で見えてきたことだと思います。

山口 大道

異なるデータをどう統合していくか

山口:その課題を解決する方法の一つが、同じく気持センシングラボの仲間であるSOOTHがもっているバイタルデータ(生体情報)の収集・分析技術です。この技術にはどのような可能性を感じていますか。

齊藤:僕たちのように広告配信の技術を常に考えている人たちは、定量的な数字でしか物事を見ない傾向があります。クライアントやメディアも数字があれば判断がしやすいですから、どうしても数字偏重のモデルになってしまいます。
しかし、それだけでは足りないということに、すでに多くの人が気づいていると思うんです。ターゲットとしている生活者の心を捉えるには、数字だけではなく、生活者に対する真の理解が必要です。しかし、どうすればそれが可能かという答えはなかなか見えない。その中で、バイタルデータによってこれまで把握できなかった非言語領域の理解を深めていくというのは、とても大きな可能性がある取り組みだと思います。

山口:アドテクノロジーを突き詰めていくと、従来のデータだけではどうしようもないという壁にぶつかると思います。バイタルデータには、新たな付加価値としての可能性があると考えています。

齊藤:今後進めていく実証実験のフローでは、SOOTHが取得し分析したバイタルデータを生かして動画をつくり、それをヒトクセの技術で試験的に配信していくということになるわけですが、もちろん広告配信だけではなく、動画視聴に関する詳細なデータを取得していきたいと考えています。ヒトクセの技術を使えば、視聴率、視聴秒数、メディア環境、行動などの相関を明らかにしていくことが可能です。

山口:SOOTHとヒトクセが持っている技術はまったく異なるものですが、それぞれの技術を利活用し、互いの技術価値を高めていくという展開があってもいいですよね。
一つハードルとなりそうなのは、バイタルデータと従来のデータのマージのさせ方です。どうやって異なるデータを結合していけばいいか。そこは大きなチャレンジになります。

齊藤:おそらく、誰も手を出そうとは思わない領域ですよね(笑)。そのぶん、チャレンジのし甲斐もあると思います。手探りになるとは思いますが、1つ考えられるのは、DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)のような一つの「箱」の中で結合するというやり方です。
バイタルデータを用いた分析を加えていくことで、より深い生活者理解につながるのではと期待しています。
実施実験を繰り返し、データの量が集まれば、将来的にはバイタイルデータをベースにより高度なクリエイティブ開発や広告配信ができるかもしれません。
例えば、DMPのデータを活用して、被験者と近しいセグメントのユーザー層に対して広告配信します。そこに、リアルで検証したバイタル反応が、WEB上でもの反応が得られるかを我々の技術を活用した指標で計測、分析していきたいと考えています。将来的には、アンケート調査、サイト内の行動、売上データとの相関を見つけていくことにつなげていきたいですね。

山口:これまでも、もちろん多くのマーケターは生活者を理解しようとしてきたわけですが、それは基本的に言語化された領域だけでした。言語化されていないバイタルデータをどう解釈し、意味づけしていくか。そこにこのプロジェクトに関わっているメンバーの知見が試されると思います。それぞれの立場で、データを上から見たり、横から見たり、斜めから見たりと、いろいろな角度からデータを解釈していく。そのプロセスを繰り返すことで、生活者理解に近づける方程式を見つけていく。そこに、こだわっていきたいです。

齊藤:このような取り組みを一社で行うのは難しいですよね。立場が異なる複数の企業のメンバーが集まっているプロジェクトだからこそ、できることだと思います。

山口 大道、齊藤 学

「言葉」と「思い」の相互作用

山口:気持センシングラボにかける意気込みについてもお聞かせください。

齊藤:最終的にどのようなアウトプットが生まれるかは未知数ですが、成果物は必ず残ると思うし、それがインターネット広告のあり方を変えるきっかけになればいいと思っています。効率だけが求められて、広告に関わるあらゆるプレーヤーが疲弊してしまう。そんな現状は変わっていくべきだし、何よりも生活者に好きになってもらえるインターネット広告を僕たちは届けていかなければなりません。
インターネット広告をもっと生活者に寄り添ったコンテンツにしていって、広告を楽しんでもらい、好きになってもらうこと。そして、その結果としてクライアントの売上を上げていくこと。そんな新しいモデルを生み出していくことが、このプロジェクトの目標だと考えています。

山口:テクノロジーの力によって「嫌われている広告」を「好かれる広告」にして、それを「売上」につなげていく。まさに、それが気持センシングラボの一つのビジョンです。

齊藤:そのビジョンを実現するには、頭を柔らかくして、現在のメンバーはもちろん、いろいろなポテンシャルをもった企業や人とつながっていくことが重要だと思います。

齊藤 学

山口:広範なコラボレーションは、「知」を拡張する絶好の機会であると僕は捉えています。ディスカッションやプロトタイピングの過程で、それぞれのプレーヤーがもっている暗黙知を投げ合うことで、共有可能な形式知を生み出していくことができるわけですから。これは「言葉と思いの相互作用」と言ってもいいと思います。

齊藤:専門領域は違っても、話していく中で互いの論点がかみ合っていって、新しい発見が次々に生まれる。そんなダイナミズムを楽しみながら、プロジェクトを進めていきたいですね。

山口:クライアント企業にもどんどん協力を募って、トライアンドエラーを繰り返しながら、新しい価値を一緒に生み出していきましょう。

“生活者データ・ドリブン” マーケティング通信
http://seikatsusha-ddm.com/
『博報堂DYグループ “生活者データ・ドリブン” マーケティング通信』は、グループ横断の“生活者データ・ドリブン”マーケティング領域における情報発信サイト。
博報堂DYグループの各事業会社が連携し、“生活者データ・ドリブン”マーケティングに関するソリューションの情報や、生活者データの活用実績のある現場社員の知見やノウハウ、当該領域の最新ニュース等を発信。

Daiko WEDO COCAMP SHALL WE CAMP? RECRUIT ミラスト “生活者データ・ドリブン”マーケティング通信 AD+VENTURE 博報堂DYホールディングス