Vol.30 Share on Facebook Share on Twitter

eスポーツの潮流
PGW所属の神園選手に聞く、プレーヤーから見たeスポーツ

大広は近年、様々な形でeスポーツに関わり、ビジネスを展開しています。欧米や韓国などと比較し、日本ではまだまだeスポーツのビジネスモデルが一般的では無く、明確な形も定まっていません。
 前回記事では、IT企業でeスポーツチームを持つグローバルセンス(GS)とGEEKSのユニークな取り組みを紹介しました。本記事ではGSのPGW(ProGamersWorld)事業部に正社員として所属し、プロゲーマーとして活動する神園選手に、日々の取り組みやeスポーツの未来について聞きました。聞き手は今回も大広でeスポーツビジネスに携わる高田信之が務めました。

本記事は、博報堂DYグループ“生活者データ・ドリブン”マーケティング通信”に掲載されたものを転用しています。

左:グローバルセンス株式会社「PGW(ProGamersWorld)」事業部所属プロゲーマー神園選手 
右:東京第1ブランドアクティベーションプロデュース本部 第2プロデュース局高田(信)チームリーダー 高田信之

高田:PGWに入ったきっかけを教えてください。2019年5月に所属を発表されましたよね。

神園:ずっと取り組んでいる格闘ゲームがあるのですが、今のバージョンになって「このゲームで勝ちたい」と久しぶりに強く思いました。ただその当時の自分の環境では「練習時間が全然足りない」と感じ、「もっと練習してもっと勝ちたい」と焦っていました。平日に仕事をし、帰宅してから2~3時間練習していたのですが、これでは全然足りなくて。納得いく練習が出来ていない状態で大会に出て、全然結果が出ないということが続きました。「もう仕事している場合じゃない」とも思ったりしたのですが、仕事をしないと生活が出来ないので悩んでいました。
 そんな時にGSの工藤さんから声をかけてもらいました。元々PGWのことは知っていて、いいチーム、いい環境だなとは感じていました。ただ、当時は仕事をしながら別のプロチームにも所属していたので、「移籍するのはどうなんだろう」と悩みました。でも、何よりも練習を沢山したかったので、チャレンジすることに決めました。

高田:工藤さんはPGWに関して、「本当にゲームしか出来ない、社会人としてどうなんだろう?というゲーマーたちに声をかけた」と仰ってました(笑)。そのようには感じないのですが、実際はどうなんでしょうか。

神園:ゲームの話をしているときだけちゃんと出来るんです。そうじゃないときはひどいもんですよ(笑)。忘れ物は多いし、スケジュール管理も怪しいです。

高田:新型コロナウイルスの影響で大会が減っています。影響はどうですか。

神園:今年は、参加出来る海外大会は全て行きたいと思って気合いを入れていたので残念ですね。でもいいところもあって、普段出来ない練習が出来ています。海外を周りながらだと、自分が普段使っているメインキャラクターしか練習する余裕がなかったと思います。でも今は時間があるので、全キャラクターを練習しています。これによってゲーム自体への理解は凄く深まったと感じています。

高田:他のプロの方はどう過ごされていますか。

神園:知り合いのプロは、いろいろなゲームを触るようになった人も多いですね。やっぱり大会がないとモチベーションを保つのが難しいんです。
 以前であれば、大会などがあって時間が限られている中で、いかに効率的な練習をするかが重要でした。でも今は練習時間が増えた中で、以前と同じ取り組みだけを続けてしまうと飽きてしまいます。いかに飽きないように練習するかが、多くのプロにとってもテーマになっていると思います。

高田:モチベーションの維持は非常に大変そうですね。大会の解説などもされていらっしゃいますが、そういう場も減っていますか。

神園:少なくなっていますね。オンライン大会は増えているんですが、それは有志による自主開催が多いので、解説を外部から呼ぶことはあまりないんです。メーカーが公式に開く大会が減っているので、実況系のお仕事も減っています。

──オフライン環境は今後も重要

高田:プロゲーマーが普段どういう生活をしているか知らない方も多いかと思います。コロナの前後で大分変わったかもしれませんが、神園さんの生活を教えていただけますか。

神園:コロナ前後であまり変わらないところと、大きく変わったところがありますね。基本的には、朝起きて昼前に出社して、会社にある練習部屋で夜まで練習して、帰宅してご飯を食べて、家でまた練習する、といった流れです。自宅は会社の近くにあります。
 コロナの前には、このサイクルの中に週2回、オフラインでの対戦がありました。秋葉原や中野など、プレーヤーが集まる対戦スペースがあって、そこで直接対戦します。移動には片道1時間掛かるのですが、そのロスがあっても他では得られない大きな成果があるので、とても重視していました。今ではオフライン対戦が無くなったので、練習時間やオンライン対戦の時間は増えていますが、オフライン対戦の経験が出来ていないのが痛いところですね。

高田:格闘ゲームの世界ではよく、「韓国は通信環境が凄く良いからオンライン対戦で強くなった」「パキスタンは回線が悪い代わりに、みんなでオフライン対戦に集まるから強くなった」と言われたりします。日本も回線が速くなって来て、オンライン対戦はやりやすくなっていますよね。それでもオフラインの場の重要性は変わらないのですか。

神園:今でもとても大事ですね。対戦中に相手が知らない行動をしてきたような場合、大体の人は直接聞けばどういう原理なのかを教えてくれます。オンライン対戦だと、分からない行動があったときに対戦を一旦やめて自分で調べて、という時間が入ります。これは面倒ですし、オフラインであれば同じ技をもう一度やってもらって、それに対する対策をその場で試すことが出来ます。
 ですので、最近はPGWの練習部屋に他のプレーヤーをお呼びしてオフライン対戦をするようにしています。やっぱりオンラインより盛り上がって楽しいですね。

高田:私もオフラインの大会に出場したことがありますが、実際に会場でお会いすると対戦相手の方は優しい方ばかりなんですよね。

神園:やっぱり知らない人とオンラインで対戦するよりは、直接表情が見えた方が人間味を感じますよね。オンラインだと顔が見えないので、例えばゲーム上で挑発的な行動をされたときに腹が立ったりしてしまうんです。でもオフラインであれば、「面白いじゃん」で話が済みます(笑)。

高田:それはデジタルコミュニケーションの問題と似ていますね。顔を知らない人に悪口を言われるときついですから。そういう点で言うと、どれだけオンラインが充実しても、オフラインの場所は無くならないですよね。

神園:最近、eスポーツのための施設も増えて来ています。今後もオフライン対戦の場は無くならないと思います。

高田:一方でゲームセンターの閉店も見られはじめました。神園さんも“ゲームセンター出身”と言えるプレーヤーだと思うのですが、ゲームセンターについてどうお考えですか。

神園:ゲームセンターの文化は凄く良かったですよ。対戦ゲームをしに行くと、何かしら人と話したり、友達が出来たりします。年上も年下もいます。社会に出る前に一足飛びに人付き合いが学べる場だったんです。たまに、かなり年下で凄く生意気な奴がいたりするんですけど、そういう奴がなんだかんだで人付き合いが出来るようになっていったりするんですよ。そういう経験が出来たのも大きいです。

高田:中高生の部活や大学のサークルなんかと近い感じなんでしょうか。

神園:それ以上の付き合いが出来ているのではと思いますね。例えば大学では40代、50代の教授と話したりすると思いますが、ゲームセンターでは10代の時に40代の人と同じ目線で、友達感覚で話せたりします。
 オンラインゲームだと、よくトラブルやルール違反が問題になります。凄い暴言を見たりもします。でもゲームセンターではあんまりルール違反はありませんでした。お互い顔を見ているし覚えられているので、やりにくいというのもあるかもしれませんが。本当に腹が立った場合は、直接言いに行くだけですし、それで解決しますね。

──オンとオフでは必要になる技術が違う

高田:オンラインの話として、回線速度によるゲームへの影響もあると思いますがいかがですか。オフラインとはどういったところが違うのでしょう。

神園:通信環境がよくなったとしても回線の遅延の影響はどうしてもありますね。対戦中に、相手の技に対してオフラインだったら反応してギリギリでやり返せるような状況があります。それがオンラインだと反応出来ない場合があるんです。そういった具合に、どうしてもパフォーマンスが落ちてしまうところはありますね。オンラインでは反応し辛い技を打ちまくる、「オンラインムーブ」と言われるようなものがあるのですが、これを相手に繰り返されると、「時間が勿体ないな」と感じてしまいます。
 最終的なゴールがオフラインの大会だとしたら、やっぱり練習も可能な限りオフラインでやった方がいいかなと思います。

高田:前回の対談で、工藤さんからも「トップでやっているプロは何をしても勝つというより、やっていることに納得したいと考えている」というお話がありました。

神園:今でこそ、“プロ”とか“eスポーツ”とか言われていますが、元はただのゲーセン小僧でしたからね。単純に強くなりたいということにプライオリティを置いていて、ゲームセンターの人達は負けず嫌いな人が多かったので、相手を納得させる勝ち方がしたかったんですよね。「これだけやられたら仕方ないか」というような。
 勝ち負けにしても、「相手より一勝でも多く勝ちたい」ではなく、出来るだけ負けずに勝ちたい、パーフェクトに勝利したいと考えています。最近の格闘ゲームは攻めた方が勝ちやすい傾向にありますが、攻めだけではなく、そういうゲーム性だからこそ守りもしっかりやることで、勝率がより高まるのではないかと考えています。


──広告会社に期待すること

高田:神園さんは海外の大会にも出場されていらっしゃいます。国内と海外で感じる違いはありますか。

神園:まず日本に居たら絶対に会わないような人に会うというのが大きな違いですね。全然言葉は通じませんが何となくコミュニケーションが出来ちゃいますね。
 あと僕が行った海外大会は、大体の場合その国や地方で最大級のゲームイベントですから、いろいろなゲームの大会が同時に行われていて、いろいろなスポンサーがいて、いろいろなコミュニティがあります。それも日本との違いですね。
 参加者の雰囲気も違いますね。国内の大会の場合、「勝ちに来ている」という雰囲気があります。海外の場合は、「楽しもう」という空気が強かったですね。初心者の方も大勢参加されていました。僕はいろいろな層が参加した方が盛り上がると思うので、そういう意味では海外の方がいいし、進んでいるかなと思います。応援に来ている方も多いですし。
 グッズが沢山売れるのも海外の特徴ですね。世界最大のゲーム大会である米国のEVOなんかは、みんな記念に大会グッズを買って帰ります。高田さんもシンガポールの大会でご一緒したときに何か買われていましたよね。

高田:ステッカーを買いました(笑)。

神園:買って楽しむ、という雰囲気が確実にありますよね。

高田:シンガポールは大会中に会場で食べられる食事の種類もかなりあって嬉しかったですね。今後こういう業種に大会のスポンサーになってもらえれば、といったことはありますか。

神園:ファーストフードの企業がスポンサーになってくれたら嬉しいですね。海外でよく見かけるんですけど、大手ハンバーガーチェーンが屋台のような感じで出店していて、その場ですぐに食べられるんです。凄く美味しそうに見えます。日本の大型大会はまだそうはなっていないので、今後に期待したいですね。たこ焼き屋さんとか、日本発のファーストフードにも有名な企業が多いので、そういう企業にスポンサードしていただければ大会の価値も高まると思います。

高田:台湾の大会では、自席からQRコードでハンバーガーを注文出来ました。出来上がったら自席のすぐそばまで持ってきてくれるんです。こうした取り組みは選手にもオーディエンスにも喜ばれそうですよね。

神園:大会でトップ8が始まってから優勝者が決まるまで全部見るとなると、少なくとも2時間はかかります。試合を見逃さないようにするとその間は席を離れられないので、食事を届けてもらえると嬉しいですね。

高田:プレーヤーの立場から広告会社に期待していることあれば教えてください。

神園:大会を開いてください、というのが一番です。大会を開くって凄く敷居が高くて難しいと思うんです。だからそれをやっていただけたら嬉しいですね。もちろんチームのスポンサーをみつけていただくのも嬉しいです。プレーヤーが活躍出来る場を作るか、プレーヤーを支えるかをしていただけたらと思います。

高田:私も弊社で大会を開くことになったら、裏方はやらずに選手として出たいと思います(笑)。

神園:実行委員長をしながら試合にも出るというのも面白いと思いますよ。大体の場合、選手はどんな人が大会を取り仕切っているか分からないんです。なので、実行委員長が大会にも出てくれた方が、ゲームを好きなのが分かるので選手も嬉しいと思います。お金の匂いしかしないイベントは、ゲーマーは嫌がりますからね。

高田:なるほど。それは新しいですね。実行委員長目指して、ゲームの腕も上げなければ。本日はお忙しい中、ありがとうございました。今後も活躍に期待しています。

“生活者データ・ドリブン” マーケティング通信
http://seikatsusha-ddm.com/
『博報堂DYグループ “生活者データ・ドリブン” マーケティング通信』は、グループ横断の“生活者データ・ドリブン”マーケティング領域における情報発信サイト。
博報堂DYグループの各事業会社が連携し、“生活者データ・ドリブン”マーケティングに関するソリューションの情報や、生活者データの活用実績のある現場社員の知見やノウハウ、当該領域の最新ニュース等を発信。

Daiko WEDO COCAMP SHALL WE CAMP? RECRUIT ミラスト “生活者データ・ドリブン”マーケティング通信 AD+VENTURE 博報堂DYホールディングス