
第3回 ダイバーシティを企業の力にどう活かすか
ダイバーシティの効用と「文化」の力
矢島社長:社内でも、狩りが得意な人と農耕が得意な人がいて、稼ぎをどう分配するのかということも考えます。それぞれ得意な分野がありますし、農耕が得意な人に無理やり狩りに行くように言ってもうまくいきませんし、狩りが得意な人に農耕をするようにと言っても成果が出ない。和えるには複数の事業があり、それぞれ得意な人が担当しています。可能な限り「個を知る」ということが、最小限の力で最大限のインパクトを出す源泉になると思いますし、労働人口が減少していく日本で、企業が生き残っていくために必要なことだと思います。
近現代史をさかのぼると、個を消す、特に大企業さんであればあるほど、いかに均質化して金太郎飴のようにするのかということが競争力の源泉だったように感じます。しかし、この変化の時代には、個の魅力をどれだけ組織で引き出せるのか、ということが重要になっています。
泉社長:そうですよね。確かに同質の気持ちよさみたいなのがあって、みんなでこっち行こうと言ったら、同質の方がすごい速いんですよね。でも壁にぶち当たった時の突破力は一気に弱くなる。全部考えが揃い過ぎてて、異質なことを言える人がいないから突破方法が出てこない。
最近ダイバーシティについて考える機会があって、ある先生から、本気でダイバーシティを導入したら、すごく居心地が悪くなると言われたんです。それは異質な人が入ってくるから。でも、大広は異質な人が入ってきても、その人がだんだん大広カラーに染まっていくと思うんです。それは大広に文化があるからじゃないかと。これはパーパスをつくっているときにすごく感じたんです。大広さんは「人が良い」と外部の方からもよく言われるし、社員もみんなそう思っていますしね。
矢島社長:そうですね。初めて大地役員とお会いした時もそう思いました。いわゆる広告会社のイメージと違いました(笑)。
泉社長:そうですね。あんまりギラギラした人がいないですよね。それが強みでもあるし弱みでもある。それを社員みんなが熱く議論してるのは頼もしいなぁと思ってね。なので、多分すごい異質な人が入ってきても、最初は居心地が悪いんだけども、大広カラーに染まっていって、大広らしいダイバーシティみたいなものが成立するんじゃないかなと思っています。
矢島社長:それはやはり、『大広さん』が人格を持っているのではないですか。だからみんなが尊重し合い、うまくいくと思うんですよ。『和えるくん』も人格が確立されているので、和える家にあなたは家族として入りますか?どうしますか?といった問いかけをするのが、私たちの採用です。『和えるくんが生まれた理由である「日本の伝統を次世代につなぎたい」という想いへの一定の共感や、自分ゴトとのつながりがないと入って来ないですし、入って来られないという採用になっています。そうすると、和えるらしさを社員それぞれが持ってくれていながら、自分らしさを捨てたり、我慢することなくご一緒できる。和えるらしさと自分らしさを失わない範囲で、どういう服を着るのか、どんな髪型にするのか。といったことを、みんな自然に考えていると思います。文化のある企業であれば、個が輝きます。しかし、文化のない企業だと、まさにダイバーシティという名の自分勝手になるのではないかなと思います。
泉社長:そうですよね。大広にも、外国の企業もしくは他業種で勤めてた人がもっと入ってきて、大広のここは合理的じゃないとか、効率的じゃないとか、指摘してほしいと思っています。新卒から大広に入ってきてずっといると、これは必要か、無駄じゃないかという問いがなかなか立たないんですね。ズバッとこれ辞めた方が良くないですか、これはロボットでやれば良いのでは、そういう視点をどんどん導入したいと思っているんです。中にいる人は、言い合えない環境だから言わないんじゃなくて、ずっと同質で育ってきてるし、それが当たり前と思ってるから気づかないのかもしれない。そういう意味でのマイナスをゼロに戻すようなダイバーシティもあるし、ゼロをプラスにするダイバーシティもあると思いますので、ぜひ大事にしたいですね。
精神性の時代に見直される日本のダイバーシティ
矢島社長:そのとき外から来た人に対して、大広さんの文化というものを、ある一定程度理解をしてもらった上で、発言をいただけるか否かがカギですね。そういうことが当たり前の社会になったら、Z世代以降も日本が生き残れるというか、むしろ世界から本当に必要とされる国になれるのではないかと思います。今の70代以上ぐらいの方々が、世界に日本の存在感をいろんな意味で生み出していってくださっているのに、自分の世代は何が出来ているのかな、といつもふと思うのです。世界全体がモノの時代から精神性の時代に動いていっている。今は大きな転換点。私は、日本人が築いてきた精神性の中に、いろんな生きづらさを解消するヒントがあると思っています。「和を持って尊しとす」という言葉は当たり前のようで、とても希少な概念というか、本当のダイバーシティだと思います。和を持って尊しという枠組みの中で起こるダイバーシティと、サラダボウルのようなダイバーシティでは、起きうることが違うと思うんですね。ここにもっと経営層が気づき、どういう事業をビジネスとして展開するのか、というのが大切なんでしょうね。文化の消費ではなくて活用が進んでいくと、世界の人々が日本に来る理由が変わってくると思います。
泉社長:日本が高度経済成長期をあれだけトップランナーで走り、同質性とか右に習え的な日本の文化が、今邪魔をしていて、その最たるものが年功序列と終身雇用という制度なのでは。これが今欧米に差をあけられてる要因の一つなんですよね。ある意味強かった文化が、今邪魔になってる。
矢島社長:やれない理由を語らずに、やれる理由だけを考えれば、絶対に変われるはずですよね。
おわりに
矢島社長:泉社長と今日お話ししていて、大広イズムと言いますか、ちゃんと大広色や文化が織りなされているのを感じました。ウェルビーイングは、人によって解釈が様々ですが、私たちが考えているウェルビーイングと、勝手ながら近いのかなと感じ嬉しく思いました。私たちは自分たちのことを中小ベンチャー企業と呼んでいるのですが、大手企業、中小ベンチャー企業の人たちが、ウェルビーイングを通じて社会の変革の仕方を議論しあうことで、実際のビジネスに落とし込み歯車が嚙み合っていく可能性や機運が高まるのではないかなと感じていた中で、こういった対話の機会をいただけたのは、ありがたく楽しかったです。ありがとうございました。
泉社長:つらい環境でずっと仕事をする必要はないし、ゴールが見えない仕事なんてする必要はない。そういうウェルビーイングなメンバーをつくってあげたいし、そんな会社にしていきたいと思います。今日は良いインプットがたくさん出来て、お時間もあっという間に過ぎてしまいました。こちらこそ、今日は本当にありがとうございました。
■プロフィール
株式会社 和える
代表取締役 矢島 里佳
1988年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。職人と伝統の魅力に惹かれ、日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始める。大学4年時の2011年3月、「日本の伝統を次世代につなぐ」株式会社和える創業。幼少期から感性を育む“0歳からの伝統ブランドaeru”を立ち上げ、日本全国の職人と共にオリジナルの日用品を販売。事業承継リブランディング事業で、地域の大切な地場産業を次世代につなぐ仕事に従事。伝統を通じて、ウェルビーイングな生きると働くを実現する、講演やワークショップも展開中。
株式会社 和える
和えるは、『先人の智慧(ちえ)を私たちの暮らしの中で活かし、次世代につなぐこと』を目指し、次世代に伝統をつなげる仕組みを創出するために、誕生しました。
伝統は、先人がそれぞれの時代の感性を常に加え、私たちにつなぎ届けてくれたもの。
先人の智慧を過去のものにするのでも、形を変えずに保護し続けるのでもなく、今を生きる私たちの感性を和(あ)え、現代の暮らしに活かすことで、次世代につなぎたい。
和えるは、”先人の智慧”と”今を生きる私たちの感性”を和えた、豊かな暮らしを次世代につなぐ仕組みを生み出しています。
■公式サイト https://a-eru.co.jp