Vol.6

『人的資本を活かす、ダイバーシティとウェルビーイング経営』
株式会社和える 矢島社長 × 大広・泉社長 《第2回》

今回は、日本の伝統を次世代につなぐ 京都のスタートアップ企業「株式会社 和える(あえる)」の矢島社長との対談を3回にわたりお届けします。

第2回 これからの企業に求められる「ウェルビーイング経営」とは

ウェルビーイングな人材・組織になるための課題

泉社長:私が人事にいた5年ぐらい前の経験ですが、新卒採用で内定を出しても断られることもあるんですよね。その時に、今僕たちが選んでいるんだけど、実は選ばれてもいるよね。ということに気づいたんです。大広のことをもっともっと知ってもらう必要があるし、学生の事も表層的なところだけではなく、もっともっと知らないといけない。上から目線で選ぶんじゃなくて、ちゃんと学生目線で採用活動をやっていくことに変えました。今は、面接と言わず「ダイアログ」と呼び、学生と先輩社員の“対話”をするようにしています。なので、そこからマッチングの割合は高まってると思うんです。過度の期待をして入ってもらっても、大手他社のような派手な仕事は少ないし地味な仕事も多い。でも逆に1年目から1人で任される仕事がある、みたいなことを理解して入ってきてくれる人たちが増えています。

矢島社長:あなたはどう生きたいの?どうありたいの?ここが大事ですよね。ウェルビーイングに生きたいのであれば、ぜひうちにいらっしゃい、ということですよね。

泉社長:まだある意味実証実験中で、5年後10年後に定着率がどうなっているかとか、大広にずっといたいと思ってくれている人がどれくらいいるかなどが見えてくるんだと思います。

矢島社長:そういう事は大事ですよね。和えるでは今、伴走型のリブランディング事業を実施しています。中小企業に特化して、企業の持つ伝統に一度疑問を投げかけて、どこに投資をし、どこを変えるべきなのかを、原点に立ち戻って考えます。また、企業の軸、本質を問い直します。どうありたいのか、目的と手段が逆になってしまっているケースが多いんですよね。例えば、製造業だと、製造自体が目的になりがちですが、製造は本来は手段でしかない。重要なのは、その手段・手法を用いて、どういう社会実現をしたくて製造業をやっているのか、といった整理をしていきます。
 その中で増えているのが、どうウェルビーイングな組織にしていくか、仕組みづくりや組織の形態、マインドや文化の改革をどうしていくかという取り組みのご相談です。そもそもそういった課題意識をお持ちの経営者は、本当に増えてきています。やはり気づいている経営者は気づいているんですよね。私たち和える自体が創業から13年間、ウェルビーイングな組織づくりの実証実験をしてきたので、その経験を活かして、どう具体的な施策に落とし込むのかを企業さんごとに寄り添いながらカスタマイズし、お手伝いしていけたらいいなと考えています。
 和えるは「日本の伝統を次世代につなぐ」ことを目指しています。伝統を現代の人々の感性に合う形にして暮し手につなぐ。だから和えるなんですよね。私たちは和えるのが仕事なので、自社だけで何かできるとは思っていません。いろんな職人さん、中小企業さんはもちろん、ぜひ大企業さんともご一緒したいです。というのも、大企業に変わっていただかなければ、中小企業が変わりたくても変われないことも多々あるからです。例えば、休日にしても、中小企業になぜこの日に出社するのですか、と聞くと、大型クライアントの大企業はこの日が出社日だから、とのこと。業界慣習などがありますから、大企業側から一緒に変わってもらわないと、本当に日本のウェルビーイングは来ないと思っています。

社員個人だけでなく、会社という人格にとってもウェルビーイングであるべき

泉社長:私は、経営トップ型やトップダウン型の経営を辞めますと宣言したんです。変化の速い今の環境でトップが1人で考えても太刀打ちできないというのがまず一つ。それから、社員のウェルビーイングを考えた時に、ひとり一人のウェルビーイングってみんな違うじゃないですか。そんな時に上からこうやっていこうって言っても絶対にマッチしないんです。垂直管理型の発想はすべて捨てて、みんなの働きやすさとか、仕事への情熱ややりがいや成長度合いみたいなものを、それぞれ自分でつくってもらって、ひとり一人に寄り添うみたいな制度運用をしていった方が絶対にいいな、と思っています。究極で言うと、全幅の信頼をするから完全に自由だし、服装も何もかも自由です。でもその自由の裏にはきちんと責任や義務があるという、そういう会社になってほしいと思っています。

矢島社長:まさに弊社もそのような感じです。社員ひとり一人のウェルビーイングを大切にすると同時に、『和えるくん(和えるという企業を擬人化)』のウェルビーイングも、共に考えてもらうんです。やはり何事も自由という名の自分勝手は駄目ですよね。ウェルビーイングの行き過ぎた、そして誤った解釈は、「自分さえよければいい」です。『大広さん(大広という企業を擬人化)』にとってもウェルビーイングじゃないと、真のウェルビーイングではないですよね。法人格と言いますが、法の下に人格を有しているということ、日本で人間以外に人格を有しているのは法人格のみです。それってすごく面白いと私は思っていまして、会社を生み出した創業者をお父さんもしくはお母さんとすると、その何かしらの思いや願いから、人格を持った子が生まれる。それが会社です。そして2代目以降は育ての親です。私は創業者なので、『和えるくん』という人格を生み出した母親であり、2代目に譲るときは新たな育ての親に我が子を託す感覚。そして社員は、お兄さん、お姉さんという考え方です。お母さん一人ではとても育み切れないので、お兄さん、お姉さん(=社員)にともに育んでもらおう、となります。『和えるくん』の弟や妹ではありません。『和えるくん』に食べさせてもらう人はお断りです、という考え方です。採用時点でこの概念を伝えています。

 弊社は、給与自己申告制なのです。会社が給与を支払うということは、ビジネスモデルによりますが、支払う給料の3から5倍は売上げないと、会社はやっていけませんね。仮に月30万円欲しいですということは、月90から150万売り上げますという宣言ということ。自分がほしい給与は誰かに稼いでもらうのではなく、自分で稼ぐというあたり前のことなのですが、誰かに評価されて給与が決まるとその当たり前ができなくなる。だから私たちは、自身の実力を自ら正しく測り自己申告することで常に等身大の己を知ることを大切にしています。
 稼ぐという観点で『和えるくん』が大切にしていることは、「日本の伝統を次世代につなぎ、三方よし以上で、文化と経済を両輪で育む」ということだけで、後は自由です。しかし、それが一つでもクリアできない場合は、どれだけ稼げる案件でも断らなければいけません。これが私たちの考える、「美しく稼ぐ」であり、逆にこれがあることで、経営者ではなくても自分がその案件を受けるべきか否か、提案すべきかどうかを明確に誰でもわかるようにしている。シンプルな考え方です。

泉社長:無茶苦茶わかりやすいですよね。私たちも今年パーパスという、大広で働く共通認識を社員参加のプロジェクトでつくりました。これも大広のウェルビーイングに繋がるだろうと思っています。

■プロフィール

株式会社 和える 
代表取締役 矢島 里佳

1988年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。職人と伝統の魅力に惹かれ、日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始める。大学4年時の2011年3月、「日本の伝統を次世代につなぐ」株式会社和える創業。幼少期から感性を育む“0歳からの伝統ブランドaeru”を立ち上げ、日本全国の職人と共にオリジナルの日用品を販売。事業承継リブランディング事業で、地域の大切な地場産業を次世代につなぐ仕事に従事。伝統を通じて、ウェルビーイングな生きると働くを実現する、講演やワークショップも展開中。

株式会社 和える
和えるは、『先人の智慧(ちえ)を私たちの暮らしの中で活かし、次世代につなぐこと』を目指し、次世代に伝統をつなげる仕組みを創出するために、誕生しました。
伝統は、先人がそれぞれの時代の感性を常に加え、私たちにつなぎ届けてくれたもの。
先人の智慧を過去のものにするのでも、形を変えずに保護し続けるのでもなく、今を生きる私たちの感性を和(あ)え、現代の暮らしに活かすことで、次世代につなぎたい。
和えるは、”先人の智慧”と”今を生きる私たちの感性”を和えた、豊かな暮らしを次世代につなぐ仕組みを生み出しています。
■公式サイト https://a-eru.co.jp

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