Vol.5

『人的資本を活かす、ダイバーシティとウェルビーイング経営』
株式会社和える 矢島社長 × 大広・泉社長 《第1回》

今回は、日本の伝統を次世代につなぐ 京都のスタートアップ企業「株式会社 和える(あえる)」の矢島社長との対談を3回にわたりお届けします。

第1回 社員のウェルビーイングをどう引き出すか

経営者としての「ウェルビーイング経営」の原点

泉社長:そもそもウェルビーイングに興味を持ち始めたのは、若い頃からの自分の体験ですね。日々楽しいと思えることがすごく大事で、自分が居心地のいい環境をつくることに結構エネルギーを使ってきたと思っています。そういう状態の時は、パフォーマンスも良いし、仕事もうまくいったりします。

矢島社長:そういったことを意識されたのは、何歳頃からですか。

泉社長:う~ん、会社に入った時からかもしれません。22歳ぐらいからですね。

矢島社長:それは、私とすごく共通していそうです。私は大学生の時22歳で創業して、そのまま会社をつくったのですが、せっかく一度きりの人生ですので、「働く」ことのために生きたくないなぁ、と思いました。逆に言うと、「生きる」という大きなものの中で、一部「働く」ということで社会との繋がりが生まれ人生が豊かになる。という捉え方をしたいなぁと思っていました。

泉社長:育ってきた時代や環境による感じ方の違いもありますね。私の父は大手商社に勤めていましたが、ちょうど高度経済成長期で、全然家に帰って来ないんです。24時間働けますか的な家庭で育ってきたので、仕事を一生懸命することに何の抵抗も持っていませんでした。でも最近では、自分の成長ややりがいを仕事に求めていて、かつプライベートとのバランスを大切にしたい、そういう考え方が主流になって来ています。

 「人的資本経営」という言葉もありますが、人材をコストではなく資本と捉えて投資をしていこう、企業価値を向上させるために人材をうまく育てて活用していこう、という考え方です。これはウェルビーイングと目的が全然違って、やっぱり会社主語と言うか、事業手法だなと思っています。私はやはり社員主語にすべきだと思っていて、そこで行き着いたのが「ウェルビーイング経営」なんです。社員が幸せな環境でこそ、いい仕事が生まれ、会社にいる意味や存在価値が生まれてくるという、そういう循環が生まれてほしいと思っています。仕事なので日々つらいこともあるけど、会社に行くのが楽しいなとか、会社のメンバーと会うのが楽しいなとか、そういう大広になってほしいし、そうならないと多分成果にも繋がらないと思いますしね。

 私たちの会社は何か物を作って売っているわけではありません。仕組みで利益を生み出すにしても、私たちのノウハウやメソッドは一人ひとりの社員に蓄積されているものです。やはり人の力こそが利益の源泉なので、彼らの力を最大限に発揮してもらえる環境を作るのが経営者としての私の仕事ではないかと考え、「ウェルビーイング経営」を目指しています。

矢島社長:今のお話をお聞きしていると、今までご自身がやられてきたことを、言語化した結果がウェルビーイングという落とし込みになったのかな、と感じました。

居心地の良い環境は自分でつくる。
自律こそが、究極の“ご機嫌”でいられる働き方

泉社長:かもしれないですね。居心地の良い環境は自分でつくりなさい、ということを事あるごとに、ずっと会社のメンバーには伝えてきていました。多分みんなピンとは来ていないかもしれませんが、多分それを言い換えるとウェルビーイングの元なのかと思います。

矢島社長:そこは、和えるにも共通すると思います。私たち和えるは、「『生きる』と『働く』を伝える」をテーマとしたセミナーを企業や自治体、教育機関などに向けて実施させていただいています。そこでは、「生きる」と「働く」を分断せずに一体化させる(和える)ことで豊かな生き方を体現しましょう、つまり“ご機嫌”な生き方をしましょうというお話をしていて、仕組みに落とし込んだりもしています。その中で、セミナー参加者の方々からときどき感想で頂くのが、「ある種、非常にシビアな働き方を求められますよね」という言葉です。自分を自分で律するということは、誰にも何も決めてもらえないということでもある。己の幸せは己にしかわからないんだから、自分自身としっかり対話をしなさいということを社員全体に求めているのですねと。
 まさにその通りでもあり、でも、それが故に究極の“ご機嫌”な大人でいられるとも言えるのだと思います。もちろん、簡単にご機嫌な状態にはなれませんが、私自身もご機嫌でいることへの努力を惜しんではいけないと、自分でも思っていて、今のお話が自分の中ではとても自然に感じました。

対話で「生きる」を整える。
「生きる」が整うと、パフォーマンスが上がる

矢島社長:意外と社会では、考えない方が楽、何かのせいにした方が楽という思考も増えているような感覚があり、社会全体がやや依存型になりつつあるのかなと感じています。そうなると、不機嫌であることにすら気づけないと言いますか、なぜ自分がモヤモヤしているのかがわからない。結果としてもっと不機嫌になっていくんですね。
和えるでは、社員が望めば、私と社員が毎月1時間対話する時間を設けています。何かモヤモヤするんだけど、その特定ができない、という人が結構多いのかな、ということに気づいたときに始めました。上司に何か相談する時は、仕事のことでなければならない、と思っているようにも感じます。でも、まず“生きる”が整わないと良いパフォーマンスが出ないですよね。だから、まず“生きる”を整えようよ。ということを和えるではいちばん重要視しています。
 何かモヤモヤしているんですよ…という始め方で1時間話をして色々と問うていくと、あぁ、ここかもしれない!と自認ができ、そこを改善していくと、“生きる”がちょっと健やかになる。何か働くときもすっといけるな、というようなことが起きます。

泉社長:確かにありますよね。自由にやっていいよって言ってもなかなかできないんですね。逆に、これやっておいてと言ったら期待以上のパフォーマンスを出してくれたりします。だから能力はすごく長けているんだけど、自分が何をやりたいか、が希薄のように感じます。これが希薄だとなかなかウェルビーイングが進まないんです。それを自分で見つけられるよう、うまく伴走してあげるという矢島さんの方法も重要だと思います。
 私たちの間でも、今1on1にはすごく取り組んでいます。まだまだうまくやっているメンバーとそうでないメンバーもいますが、やはり本質的なところに目を向けないといけないのだと思います。なぜこの人は、やりがいとか、自分の「やりたい」や「ありたい姿」が見つけられないのか、そういうところを紐解いていってほしいんですけど、それがなかなか難しいんですね。だからウェルビーイングも見える化が本当に難しいですよね。

「己が何をしたいのか」を内観する力をつける

泉社長:仕事うまくいってる?と聞かれて、うまくいってないとは言いづらい、隠したがる傾向があるんでしょうか。心理的安全性とか、言いやすい環境づくりも私たちの仕事だと思っています。

矢島社長:私たちも“aeru school”という教育事業と研修事業を実施しています。大広さんでもご一緒したことがあります。若い世代は、話してくれないというよりは、言葉になりきってないとか、そもそもあまり自分の考えを他人に述べるという意識が薄い方も多くなっている気がします。もっと言えば、己が何をしたいのかという内観がしきれていないという所もあるので、上の世代からすると、一見隠しているように見える。でも隠しているわけではなく、伝える術がない。あと、問題を起こさないように親や先生から見た、いわゆるいい子でいるという傾向は、やや強い世代だとも感じます。
 “aeru school”では、内観を深めるために、伝統工芸品の伊勢型紙を使ったワークショップを行っています。「自分が大切にしたいこと」「なぜ大広に入ったのか」とか何かしらのテーマを決めて、好きな伊勢型紙を選んで、直感で彩色してもらいます。まず頭で考えずに、自分が何となく感じることを表現する。型紙を使うので、必ず何かしらの作品ができます。できあがったら、同じワークショップ参加者とチームを組み、お互いに、何でこの色にしたの?何でこの伊勢型紙を使って表そうとしたの?ということを聞きあいます。基本、お互いに褒めるスタイルで。作品の良し悪しではなく、自分のつくったものについて「なぜ?」と深掘っていくので、次第に自分の過去の影響や、何でここにいるのか、どうなりたかったのか、といった内観が、他者とともに深まっていくんです。
 新卒同士や、上司と部下が織り交ざりながらなど、どんな形でも可能です。あの上司ってあんなカワイイところがあったんだとか、あの部下はこういうことを考えてたんだ、という感じでこの“aeru school”の研修を通して見えてくるんです。ウェルビーイング研修としてもご活用いただいています。しかも、日本の伝統文化の学びも同時に得られるので一石二鳥と好評です。

素直になって自分を知ることからウェルビーイングが始まる

矢島社長: 私は、どうしたら日本の伝統に出逢ってもらえる人を増やせるか、また伝統を通じて、自分にも他人にも優しくなれるという感覚を体感してもらえるか、ということをひたすらずっと考えてきました。企業研修などで、ウェルビーイングの研修をしたいという課題をいただいた時に、自己を内観し、自ら考えられる思考プロセスを導き出す。そのために日本の伝統の力を活用できると思ったんです。
 日本の伝統を活かして、左脳ではなく右脳、直感で体感できる様々な研修を開発しました。伊勢型紙を活用したワークでは、なんだか楽しくなってしまって、手が先に動くんです。成果や人目を気にせず、自由に何かを生み出すという感覚を久々に味わえた、とおっしゃっていただくことも。これが、絵を描いてください、だとハードルが高くて。自分は絵が下手だから、と結構トラウマのある方が多いのですが、伊勢型紙を活用すれば老若男女誰でも必ず作品ができるので、素直さを引き出す研修ツールとしてすごく重要なのです。素直さが出ないと本当の意味での内観にならないんですよね。

泉社長:いいですね。よそ行きの仮面を1回取って、自分を内観し、自分自身を知ることからスタートした方が、お互いの意見も活発化しますしね。例えば、ある程度年齢を重ねていくと、結構自分の「鎧」みたいなものが分厚くなってると思うんですけど、そんな人たちの素直さを引き出す時の工夫や心得などは何かありますか。

矢島社長:「今日は日本の伝統を体感していただきながら、こんなお題でみなさんと作品づくりをしていこうと思います。」といった感じで始めます。入り方が非常に大切です。日本の伝統が嫌いという人はあまりいないので、穏やかな空気感で始められます。働くモードが全開にならないように、会社人ではなく、個人でいてもらえるように、意識しています。講師もスーツは着ては行きません。
 今、ありがたいことに本当にこういった“aeru school”企業研修のご依頼が増えてきています。まさに企業活動を中長期的に考え、個が幸せでないと良い人材から辞めていく、ということに皆さん危機感を持たれて、人への投資の重要性に気づいてこられているのだと思います。

■プロフィール

株式会社 和える 
代表取締役 矢島 里佳

1988年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。職人と伝統の魅力に惹かれ、日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始める。大学4年時の2011年3月、「日本の伝統を次世代につなぐ」株式会社和える創業。幼少期から感性を育む“0歳からの伝統ブランドaeru”を立ち上げ、日本全国の職人と共にオリジナルの日用品を販売。事業承継リブランディング事業で、地域の大切な地場産業を次世代につなぐ仕事に従事。伝統を通じて、ウェルビーイングな生きると働くを実現する、講演やワークショップも展開中。

株式会社 和える
和えるは、『先人の智慧(ちえ)を私たちの暮らしの中で活かし、次世代につなぐこと』を目指し、次世代に伝統をつなげる仕組みを創出するために、誕生しました。
伝統は、先人がそれぞれの時代の感性を常に加え、私たちにつなぎ届けてくれたもの。
先人の智慧を過去のものにするのでも、形を変えずに保護し続けるのでもなく、今を生きる私たちの感性を和(あ)え、現代の暮らしに活かすことで、次世代につなぎたい。
和えるは、”先人の智慧”と”今を生きる私たちの感性”を和えた、豊かな暮らしを次世代につなぐ仕組みを生み出しています。
■公式サイト https://a-eru.co.jp

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