『経営戦略としてのDE&I推進に向けて』 泉社長x早稲田大学長内教授対談Vol 4
今期から「経営戦略としてのDE&I」を推進していこうとしている大広。
まずは経営層のDE&Iに対する認識を揃えるため、8月下旬に役員向けのDE&Iワークショップ(以下、WS)を開催。
ワークショップに登壇頂いた早稲田大学ビジネススクール教授の長内教授と泉社長のお二人で大広のDE&I推進に向けてお話頂きました。
これまでの第1回「不確実性への対応において重要なDE&I」、第2回「“性差を感じない”働き方ができる会社へ」、第3回「「出る杭」としてのダイバーシティ」に続いて、最終回をお届けします。
今回は、8月下旬に長内教授を迎えて役員向けに行われたDE&Iワークショップを振り返りながら、事務局からのQ&A方式で、これからの大広のDE&Iについて語っていただきます。
第1回の記事はこちら→『経営戦略としてのDE&I推進に向けて』 泉社長x早稲田大学長内教授対談 Vol 1
第2回の記事はこちら→『経営戦略としてのDE&I推進に向けて』 泉社長x早稲田大学長内教授対談 Vol 2
第3回の記事はこちら→『経営戦略としてのDE&I推進に向けて』 泉社長x早稲田大学長内教授対談 Vol 3
ボトムアップでスピード感あるDE&I推進を
Q)役員向けワークショップを振り返っての感想をお聞かせください。
泉社長:(役員向けDE&I WSを振り返り)DE&Iが当たり前になったらいいな、という意識は役員全員一緒だと思うんですけど、スピード感やゴールのレベル感に役員間でも違いがありました。私は、壮大な目標というか、「ここをゴールにするぞ」と立ち上げないと、大きな改革にならないと思っています。ちょっとずつできることをやっていっても進まないと思うので、そこは意識の共有は必要かと思います。
みんなと議論しながら、女性活躍というと男女比を変えていこう、採用でいうと半分は「ユニークな人」を取ろう、とか、それぐらいの「え、これほんとにできるの?」というぐらいの目標設定をしたいです。
その時に、「泉さん、何変なやつ採用してるんだ」と言われるぐらい「社長が進めている」という空気を作っておけば、推進されるのではないか。女性管理職3割にしろ、手段が目的化しやすいと思います。達成のためにちょっと下駄はかせて3割にするとか、そういうことを絶対やってほしくないと思っています。何のために多様性が必要なのか、実現するのか、という目的が大事。そして目標設定。そこに向けての戦略・戦術つくる、ということを早く取り組みたいです。
長内教授:今仰った、ステップバイステップでやれることからやっていくよりも、無茶な目標設定していく、というやり方は、日本企業らしいというか、日本企業の良さを引き出せるやり方だと思うんですね。というのは、欧米企業は、わりとルール決めて手順を踏んで、という方法がやりやすいと言われている。業務分掌がしっかりしているので、「私の仕事は私の仕事」。よく、One for All, All for Oneが日本と違って解釈されていると言われている。欧米では「みんなに迷惑かけないために、自分の仕事をしっかりやる」というのが、One for All, All for One。日本の場合には、「自分ができることは、みんなを助けてあげよう」。その発想は日本独自のところがある。そういう職場だからこそ、とりあえず無茶かもしれないけど、チャレンジしてみて、試行錯誤しながら調整していく、という方が日本企業に向いているという経営学者がいます。その試行錯誤のスピードが非常に早いのが日本企業の特徴。ある程度、自由で、かつ無茶な目標設定のもとで、現場に自由にやらせて試行錯誤して、その中で徐々に調整して、という方が、ステップバイステップでやっていくより、日本企業には合っているかもしれないです。
泉社長:そうかもしれないですね。どこかの取材をうけたときに、広告会社はジョブ型の働き方は向いていない、と話しました。みんな会社に対するロイヤリティもあるし、困っている人を助けてあげるし、「自分の仕事はこれだけだ」というのではなく、「みんなで成果を上げていこう」というようなスタイルの方が、結果がより大きくなります。大広は、そういう風土だな、と思います。専門性の高いメンバーはいるが、ジョブ型ではないというのが日本企業らしいのかもしれないですね。
Q)スピード感をもって、まずどこに取り組んでいきますか?
泉社長:まずは女性の活躍できる環境整備。実際に女性が活躍できる職場を人数含めて実現したいと思っています。社員数割合の目標も男女比5:5。
今のまま行くと、5:5にならないので、打ち手を考えないと早期に実現できないので、それが一つ。
加えて男女だけではなく、多様性を会社の中に取り入れていかないと、おいていかれるという危機感がすごくあります。
分かりやすく男女と言いましたけど、もっと「変わった人の集まり」でいい会社だな、と思うので、広い意味でのダイバーシティ、構造改革としても表層的ではない「真のダイバーシティ」に今後ぜひ取り組みたいです。
長内教授:いいですね。
泉社長:ただ、大広の試行錯誤のスピードはとても遅いと思う。それには理由があります。これまで経営トップダウン型だった。現場への権限移譲が少なかった。そういうミッションを明快に現場、マネージャー層に進めていかないと絶対スピードアップしていかないと思っています。
Q)泉社長が就任されてから、ボトムアップ、フラット、ということを発信されています。そことDE&Iの取組がかみ合うと、スピードアップしていくかもしれないですね。ボトムアップを推進していくポイントはありますでしょうか?
長内教授:世の中がこれだけ不確実。コロナ渦の変化もそうですし、AI、仕事の仕方も変わるし、ビジネス環境も変わることに対して、危機感を持つこと。変化に対して、周りが変化するのに、自分が変化しないと、そのブレ幅は大きくなりますので、自分が変わらないと変化に対応することはできない。そう考えると、素早く動く、とりあえず動いてみる。当たりはずれはあるけれども、できるだけヒット率を高めていく、失敗することを恐れない。危機感を持ってカルチャーに変えていくことが重要なのかな、という気がします。
泉社長:私も、できるだけフラットな経営、その際に心理的安全性をいかに作っていくのかを一番意識しています。「みんなに任せたから」「うまくいったらいいし、失敗してもいい」ということをみんなで共有できるような会社にならないと、自由にやっていいよ、と言っても、失敗したら怒られるんでしょ、という空気の中ではイノベーションは起こらない。そういう意味では、そこにすごくエネルギーを使っていきたいでと思っています。
長内教授:そういう職場で働きたいです。
まとめ
真のダイバーシティが実現されると、不確実な環境でも対応力があがっていきますね。
危機感を持ちながら、心理的安全性の中で、チャレンジしていく。
DE&I推進を経緯層がコミットすることで、ボトムアップで進めていける空気を作っていく、ということですね。ありがとうございました。(細谷 記)
■プロフィール
長内 厚(おさない あつし)
早稲田大学大学院経営管理研究科 教授
1972年、東京都生まれ。
1997年、京都大学経済学部経済学科卒業後、ソニー株式会社入社。ソニーにて10年間、商品企画、技術企画などに従事、商品戦略担当事業本部長付を経て京都大学大学院に業務留学。博士号取得後、神戸大学准教授、ソニー株式会社外部アドバイザーなどを経て2011年より早稲田大学准教授。2016年に現職。ハーバード大学客員研究員や国内外の企業の顧問も務める。2023年より総務省情報通信審議会専門委員。ニュース、情報バラエティなどテレビ出演多数。ダイヤモンドオンライン、with digital(講談社)連載中。近著に「読まずにわかる!『経営学』イラスト講義」(宝島社)がある。フジテレビ「LiveNewsα」コメンテーター。世の中の様々な事象を経営学を使って読み解く、YouTubeチャンネル「長内の部屋」を開設し発信中。