『経営戦略としてのDE&I推進に向けて』 泉社長x早稲田大学長内教授対談 Vol 2
泉社長と早稲田大学ビジネススクール教授の長内教授のお二人による大広のDE&I推進に向けての対談。
前回の第1回「不確実性への対応において重要なDE&I」に続いて、第2回をお届けします。
前回の記事はこちら→『経営戦略としてのDE&I推進に向けて』 泉社長x早稲田大学長内教授対談 Vol 1
“性差を感じない”働き方ができる会社へ
かつての広告業界は圧倒的な男性社会
泉社長:(広告業界や大広のDE&Iを振り返ると)多様性を実現していくために、手段や手法がありますが、広告会社では一番最初は「女性活躍」だったんですよね。これは古く広告会社が1980~90年代、業界人とか呼ばれて持てはやされていた時代には、やっぱり男性社会が圧倒的に優位だった。男性社会だからこそ伸びていっていたところがありました。その広告会社がマーケティング会社に変化していく中で、女性の視点が重要になりました。実際にものを買ってくれるのは女性が多いと思います。何かアイディア出す時も男性だけでは思いつかない。例えば化粧品とか、男性が普段使わない商材を扱うビジネスを過去もしてきています。それさえも男性がしてきていた、ところにすごく無理があったと思います。
「女性活躍」も手段で目的ではないと思います。クライアントに私たちがいろんな価値提供をしていく中で、購入頂く方のインサイトを考える時に、男性だけでも、女性だけでもダメで、そういう意味では日本の人口比にあった男女比が本来は社内にいるべきなんだろうけど、実際は今の大広の男女比は65対35とかです。しかも、クライアントと直接向かいあうフロントラインだともっと女性の割合が少なくなっています。そこをやっぱり増やしていきたいと思っています。
一方で、女性の管理職を3割にしようとか、数値を置くことは否定しないんですけど、それを目標にしてしまうと、先ほど言ったように目的とずれてきてしまう。そこをフラットに男性も女性もなく、実力がある、マネジメントとかリーダーシップがある人をいかに育てていくか。結果、女性の管理職増えたよね、とか、女性が活躍できている会社になっていきたいと思っています。
長内教授:まさに、女性、男性関係なく、気が付いたら同じぐらいの割合でした、というのは本当に理想のゴールですよね。
今まで、極度な男性社会だった日本の企業の中で、女性らしさに目を向けるというのも一方で大切なんですけれども、過度に女性らしさを求めることも、女性を1つに囲い込んでしまうことで、実はダイバーシティの実現という意味では、必ずしも一致するかどうかはわからないです。
先ほどの化粧品の話も、化粧品は女性のものだという感覚は、もしかすると我々の世代までかもしれない。今、大学生では男性でもスキンケアが当たり前になってきてますね。そうして考えると、だんだん世の中で、これは男性、これは女性、というのがどんどんなくなってきています。仕事の場も同じようにしていかないといけないですね。
泉社長:そうですね。
長内教授:そうした時に、女性が男性社会のカルチャーが変わらないまま、女性の数だけ押しあげて、先ほどの「3割」のような、数値目標だけ先走って、女性は男性社会に合わせる形で「名誉男性」のような位置づけになってしまうと、先ほど申し上げた「目的に合致しない」となってしまいます。そこを違えないように、というか、気が付いたら男女同じ割合になっている、ぐらい性差を感じない仕事の仕方を目指すというのが一番の女性活躍推進につながるんだと思うんです。
泉社長:当たり前のように、男性も女性もいる、というのがすごく理想。さっきの化粧品の話で、男性用の美容商材も扱ったりしますが、男性の美容商材だからこそ女性の意見が必要だったり、女性の商品だからこそ、男性の意見が必要だったり、ということも実際はあります。今、先生が仰っていただいたように、気が付いたら、男性女性の混在チームになっているよね、という形に早くなってほしい。すぐにでもしたいと思っています。
こうあるべきだという常識を疑うことがダイバーシティにつながる
長内教授:一方で、どうしてもスタートが男性社会なので、意識的に女性の意見を取り入れていかないと、フラットな関係が作れないかもしれない、というのがありますよね。
泉社長:あります。現実問題、今の社員の定期採用、キャリア採用を今まで通りの比率でやって、定年退職を迎える方との計算をすると、若返りはどんどん進むんですけど、男女比はあまり変わらない。シミュレーションをやってみたが、女性を多めに採用していったとしても、そこは劇的には変わらなかったです。
長内教授:それはなぜなのでしょうか?
泉社長:それは、現時点の7:3とかの男女比に対して、採用で増えていく女性の人数が少ないので、そこまで大きく比率は変わらない。全員女性採用します、とかになるともう少しスピードが上がると思いますけど。そこは何か意図を持った視点が必要になってくるのではないかと思っています。
もう一つは、マネージャーを目指したいという女性が少ないと感じます。最近は男性もなりたくないとの声も聞きます。日々の業務が忙しいのに、さらにマネジメントまでやりたくない、という声。ここは男女問わずだが、やっぱり女性の方がその傾向が強い気がするので、ここもどう変えていくか。ロールモデルという言い方は嫌いだが、男性は「ああいう人になりたい」「ああいうリーダーになりたい」という存在が結構いらっしゃるのですけど、それは男性の母数が多いので自然発生的にいます。
女性の場合、女性が男性のリーダーみたいになりたい、というのはあまりないです。母数が少ないので、目指すべき先輩とかがまだまだ少ない。なので、男性と同じぐらい数もそうだし、活躍もする職場になると、自然発生的に女性リーダーも増えてくるし、後から入社する人たちも、ああいう働き方もあるのか、こういうのを目指すのもあるよね、というのが結構生まれてくるんだろうなと思います。
長内教授:なりたくてもなれない、というのは、もしかしたらあるのかもしれないですね。
家庭ですとか、生活環境ですよね。会社がどこまで社員の生活に口出せるのかという問題はあるのかもしれないですけど、例えば、家事は女性の仕事だ、というようなアンコンシャスバイアス。学校の行事はお母さんがいくものだ、という思い込みのようなものがあると、どうしてもそこに引っ張られてしまうので、会社での時間をさけない。潜在的にはマネージャーになりたいというのがあったとしても、手をあげられない、ということはあるかもしれないですね。
泉社長:事実あると思います。なので、一緒に働いている周りの社員に伝えているのは、「16時までしか働けないので、その後にもらったメールへの返信は翌朝になります」と宣言したらどうか、そういう働き方ができる会社のルールなのだから、そういう働き方をしたらどうか、と言っても、やっぱり子供を寝かしつけて夜22時から仕事してやり取りしないといけない、というのが現実にはおこってしまう。そうするとやっぱり肉体的にも精神的にも疲れてしまいます。女性男性関係なく、こういう働き方とか、生活スタイルとかも、それこそ多様性があって、それに会社がエンパワーメントしていけるような方法も併せて考えていかないと、女性活躍とかの手段もうまく進まないのかなと思っています。
長内教授:そうですね。
泉社長:以前読んだ記事で、伊藤忠さんが、働き方を朝型に変えた、というのがありました。朝7時とかから仕事を始めて、15時には仕事終わって、お子さん迎えに行って、という取組。結果的に、社員の出生率が上がったというのがありました。そういう方法もあるんだなと思いました。いろいろ、今までの常識とか、今までやってきたことを本人ももう一回問いをたてる、これでいいのか、もっと方法はないのか、というのは考えないといけないですね。
長内教授:これこれはこうあるべきだ、という常識を疑うことがダイバーシティにつながるし、逆にそういうダイバーシティの考え方が、新たなイノベーションのブレークスルーにつながりますよね。今の在りようというのがスタックしてしまってはイノベーションも起きないし、ダイバーシティも進みませんよね。そこは車の両輪ですよね。
泉社長:そうだと思います。
■プロフィール
長内 厚(おさない あつし)
早稲田大学大学院経営管理研究科 教授
1972年、東京都生まれ。
1997年、京都大学経済学部経済学科卒業後、ソニー株式会社入社。ソニーにて10年間、商品企画、技術企画などに従事、商品戦略担当事業本部長付を経て京都大学大学院に業務留学。博士号取得後、神戸大学准教授、ソニー株式会社外部アドバイザーなどを経て2011年より早稲田大学准教授。2016年に現職。ハーバード大学客員研究員や国内外の企業の顧問も務める。2023年より総務省情報通信審議会専門委員。ニュース、情報バラエティなどテレビ出演多数。ダイヤモンドオンライン、with digital(講談社)連載中。近著に「読まずにわかる!『経営学』イラスト講義」(宝島社)がある。フジテレビ「LiveNewsα」コメンテーター。世の中の様々な事象を経営学を使って読み解く、YouTubeチャンネル「長内の部屋」を開設し発信中。