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LGBT総合研究所 LGBT総合研究所

LGBT総合研究所

LGBTと企業を“生活者発想”でつなぐマーケティングエージェンシー

多様なセクシュアリティ(性のあり方)を尊重しながら、新しい価値の創造を目指す「LGBT総合研究所」。これまで見過ごされがちだった、LGBT・性的少数者(以下:LGBT)と企業の架け橋となるために、AD+VENTURE制度で誕生したマーケティングエージェンシーです。入社後わずか5年で起業するに至ったお二人に、チャレンジの経緯や現在のお仕事、これからのビジョンを語っていただきました。

──そもそも設立のきっかけはなんだったのでしょうか。

森永:元々学生時代からLGBTに関する事業をしたいと思って就職活動していました。いくつか企業のインターンシップでも、LGBT総研のビジネス構想は提案していましたが、当時は「LGBTって何?」という反応がほとんどでしたね。その後、大広に入社しました。
博報堂DYグループにはグループ横断での公募型ベンチャー制度AD+VENTURE(以下:アドベンチャー)があり、大広社員も応募できます。就職活動をしている頃から面白そうだなと思っていたので入社一年目からチャレンジしていました。選考は厳しかったので、5年間挑戦し続けている中で、営業で頑張っている東松も巻き込んで、今のチーム構成に至ります。東松はひとつ下の後輩で、営業マンとして優秀だったし、プライベートでも仲が良かったので誘いました。

東松:当時、同じ得意先を担当していたことはあるんですけど、一緒に仕事をする機会は少なかったんです。本当にプライベート的なつながりでしたよね。

──選考を通過するために、どんなことを学んでいたんでしょうか。

森永:アドベンチャーは単なるビジネス公募システムではなく、サポートプログラムも充実していました。ベンチャー企業の経営者や投資家にビジネスモデルを見てもらったり、グループ各社からメンターがついて協議してもらったり紹介してくれるんです。起業経験が無い僕らにも、会社設立から経営のあり方、資金に関するさまざまなノウハウを学べる体制が充実しています。実務でいっぱい経験を積んでいらっしゃる方々が、ずっと僕たちに並走して、さまざまなことを教えてくれる。各ブランドエージェンシーの英知の結集みたいな感じなので、学ぶことがすごく多かったです。僕の場合は、入社初年度から応募し続けていて、5年目の応募のときに最終選考を通過できて、事業化決定に至りました。

──5年ものチャレンジ過程で気持ちが折れることはありませんでしたか。

森永:気持ちが折れることはなかったですね。苦労が全くなかったわけではありませんが、苦労がなかったら面白いことがその先待ってないと思うんですよね。例えば、直面した課題を解決しようと悩み抜いた結果、「よく考えてきたね」って言われることもいっぱいあって。自分の成長が実感できたので、そういう意味では楽しかったかな。僕が知らない経営や事業計画の知識をどうやって吸収しようとか、ワクワクや期待感の方が大きかったですね。

東松:僕は大学時代に起業に関するゼミで学んでいたので、新しい事業を作ることに対するモチベーションは高く持っていました。僕自身はLGBTの当事者ではないので、そんな自分が関わっていいのかっていう気持ちはあったんですけど。
当時の部長からは、ぜひチャレンジした方がいいとアドバイスをもらいました。

──5年のチャレンジを乗り越え誕生しましたが、船出は順調だったんでしょうか。

森永:2016年5月9日に「LGBT総合研究所設立」というリリースを出しました。思い出深いですね。インパクトのある調査データも出して、すごく反応が大きかったんです。国内外から多くの電話や反応をいただいて。設立当初はワクワクしかない毎日でした。
ただその後は「これ、お仕事になってる?」っていうぐらい売上がなかったんです。半年くらい、厳しい状況が続いて本当に辛かったですね。

東松:当時の社会意識として、LGBTに対する認知は低くて、設立当初の2016年は話を聞いてもらえること自体が稀な状態でした。

──その状況から逆転するために、どんな努力をしていたのでしょうか。

森永:これじゃいかんと一回気持ちをリセットしたのが11月頃。当時は、売り物が明確化されていない状態で、クライアントも仕事を頼みにくかったのかなと思います。そこで、何を売り物とするか、といった整理を始めました。それと、株主の博報堂DYホールディングスや、投資家の先輩たちと、ビジネスモデルの精緻化について相談の毎日でしたね。当時はテレアポをするにもどうしたらいいのかわからない状態でしたが、とにかく攻めの姿勢でアクションし続けて、年間で2400件くらいテレアポしていましたね。

東松:獲得したアポイントは年間で250件くらい。そこから多いときには1日に5社を訪問する日々が始まったんです。
でも、最初の半年間はLGBTに関する企業研修のセールスだけでしたので、マーケティング関連の取引は一切なかったんです。
その状況を打破するためにマーケティング関連の売り物をつくってセールスし始めたんですね。理由はわかりませんが、マーケティング関連の依頼がこの先に待ってるという感覚があったんです。そのあたりから状況が変わり始めたのかな。

森永:それでも採用される企画は少なかったよね。事例はないけど面白いからやりましょうって自主提案でしかない。今思えば、当時の企画レベルは、僕がクライアントであっても断っちゃうような企画でした。でも、繰り返しチャレンジする中で、良い企画が増えてきた。年が明けてから、売り上げが徐々に上がり始めましたね。

東松:大広のサポートもありました。大広のクライアントである大手家電メーカーさんを、担当営業に紹介してもらったんです。すると、メーカーの担当者が総研ならこの事業をサポートできるんじゃないかと、新商品の話をしてくれました。そのとき、初めてマーケティング領域に携われるお仕事をいただいたので強く印象に残っています。

──順調な風が吹いてきたように思います。不安は解消されたのでしょうか。

森永:それだけでは安心できませんでしたよ。というのも起業したからには僕の仕事は経営です。企画やビジョンをつくるのも大事ですけど、結局は数字がすべて。会社を続けられる目処が立っているのか、この案件ひとつだけで終わるのか、そうしないためには何をしたらいいのか試行錯誤の毎日でした。

東松:総研は2人しかいないので、1人が止まれば稼働量は半分で、2人止まればゼロになる。営業領域は僕の担当なので僕が動かないと売上につながらない。不安を抱いたり、悩む時間があるなら動こうと思っていました。

森永:思い返すと色々ありましたね。1年間のテストマーケティングを総括して、事業存続の判断を株主に仰ぐプレゼンが6月頃にあるんです。その直前には、ちょっと気持ちが揺れていたときもありました。先行事例を探りにニューヨークに出張していて、日本の空気とアメリカの空気があまりに違うことに圧倒されていたのもありますが、日本でこの事業を立ち上げても、うまくいかないんじゃないかな、と不安になったり。果たしてこの事業はうまく行くのか、事業の方向性は正しいのか、このままじゃ会社を存続する意味がないんじゃないか、とか。そんな話を二人で毎日していましたね。
ただ、LGBTの人たちの感性を使って、今までにない価値をつくるということは誰もやっていない。そこにはチャレンジし続けて行きたいという気持ちはずっと強く持っていた。
だいたい1ヵ月悩み抜いて、会社を続けたいという強い思いを6月のプレゼンでぶつけました。
「こういう未来があるんです、続けるべきです、ここで潰してはいけません」ってアピールしました。

──無事危機を乗り越えたようですが、現在のお仕事や今後の展望をお聞かせください。

森永:今は、研修事業の他に、マーケティング領域での仕事が増えています。広告の表現開発や商品・サービス開発の仕事が半分くらいを占めています。他にドラマの監修や、芸能プロダクションさんのリスクマネジメントとか、不動産会社さんとビルのトイレの動線設計づくりとか。
最近では、TOTOさんと一緒に、トランスジェンダー(出生時の性別と異なる性別を生きたい人)の方がストレスなくお手洗いを利用してもらうために、どんなお手洗いがいいのかを、共同調査させていただいたりしています。一緒に、調査レポートも発信して、誰もがストレスフリーにお手洗いを利用できるような豊かな社会にしていこうという想いでご一緒させていただいてます。

東松:あとはイベントでの、商品体験のプロモーションブースとか。プロモーション後に検証調査を行い、認知がどれだけ高まったのかなど、正確な数値も出しています。

森永:世の中の商品やサービスを俯瞰してみると、これまで性や年代をベースに設計されているものが多く、男・女のふたつでマーケティング活動している企業がほとんどでした。でも、これからは多様な性のあり方から、世の中に新しい価値をどんどん生み出したいですね。LGBTの感性を活かしてイノベーションを創発していく。これは日本に留まる話ではなく、アジア圏でも同じで、同性婚の成立した台湾や、タイ、中国などの海外事業も、近い将来始められるかな、と思っています。

東松:僕は、LGBT総研をなくしたいと思っています。いい意味で、ですよ。例えばマーケティング担当者がLGBTのことも自然と考えられるなら、総研は必要ないですよね。誰もが当たり前にLGBTのことも考えられる社会、そんな社会を総研の事業を通じてつくっていきたいです。総研がなくなった先には、LGBTの感性を活かした商品・サービス開発に挑戦していきたいです。でも、まだまだ向き合い始めたばかりの社会環境でもあるので、LGBTの感性を活かし、新しい価値を持つ商品・サービスの共創まで進む企業は少ないですが、LGBTの感性によって、未だ見ぬ価値が生まれたり、ワクワクするような商品・サービスが生まれるかもしれない。それをマジョリティ、マイノリティ関係なく、すべての人に享受いただけるような未来をつくっていきます。

──ありがとうございます。最後に就活生のみなさんへメッセージをお願いします。

森永:大広って面白い会社だと思っています。いい意味ですごく働きやすい環境。
ただ、それだけでなく、もっと面白いポイントとして、チャレンジすることを誰も否定しない企業カルチャーが強みだと思います。総研のチャレンジもそうで、とにかく、「まあやってみなさいよ」というんで任せてもらったのかなと思っています。チャレンジすることが好きな人がこの会社に来たらいっぱいチャンスがあるんじゃないかな。
泥臭い部分ですけど、直球勝負で頑張って提案し続ければ、夢が叶う会社だなって気がしています。新しいことをやりたいと思っている人やチャレンジマインドがある人なら、楽しい大広人になれますよ。

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