マーケティングの権威、ロン・ジェイコブス氏 スペシャルインタビュー

聞き手:東1営局 東1営1 石川 智哉

石川:本日は、ダイレクトマーケティングの大先輩であるロンさんに、私が10年間、大広で仕事をしてきた中で、いま悩んでいること、聞きたいことをざっくばらんにインタビューさせて頂けたらと思っています。
日本の広告業界は、デジタル領域の出現によって、大きく変化を遂げたと思っています。ただ、ツールや手法、アドテクノロジー等が先行してしまっていて、クライアントの根本課題へのサービスがおろそかになっているように感じます。手法だけで本質がないという状態に、私はすごく課題を感じるのですが、そのあたりについて、ロンさんはどう思われますか。

ロン:そうですね、アメリカでは、いわゆる新しい、輝くようなアイデアがあればそれを取り入れようとする動きがあるのは、ある意味当たり前のことなのだと思います。つまり最新のトレンドだとか、最新のテクノロジーだとか、色々なアイデアがあったらそれをやってみようと、追随してみようと思うのは自然な流れなのかなと思います。日本でももちろん、トレンド、流行というものがあり、それを使うことによってどのようにビジネスに影響が及ぶのかということを理解せずに、とりあえず適用しようとしてしまっている流れがあるのではないでしょうか。

石川:ただ、そういったものをどのタイミングで取り入れ、どう使っていくべきなのか。

ロン:まさにそれこそが、広告会社の大きな役割になってきているのではないでしょうか。
お客様にとっての真のビジネスパートナーになるために、お客様をリードする必要があると思います。
もちろん、お客様の声、クライアントの声に耳を傾けて丁寧に接したいと考えています。
お客様に、これをやってみたい、新しいツールを使ってみたいと言われたら、私は、それを少し調べさせてください、評価させてください、探索させてください、と言います。それで、お客様がそれをやりたいということであれば、もちろん断りません。「Yes」と言います。ただ、注文を受けて終わりではなくて、お客様の真のパートナーになるためには、それをどのように使うことがお客様にとって良いことなのか、ということを一緒に考えることだと思います。

石川:広告会社はクライアントのパートナーとして機能するべきだと思いますが、今ではコンサル会社が、私たちがやるべき領域、やろうとしていた領域にまで踏み込んできて、脅威となっている現状を感じています。

ロン:そうですね。まさに彼らが私たちの競合になりつつあるわけですよね。
もちろん、クライアントの中で私たちが最も強みを発揮できるようなニッチな領域を探さないといけないと思います。
そのニッチな領域というのは、私たちが、常にお客様、クライアントに対して価値を提供できるような場所でなくてはなりません。
そしてその価値(バリュー)というのはお客様にとって見えるものでなくてはなりません。
この広告会社が私たちにこういった価値を提供してくれたのだということを、お客様に言って頂けるようなものでなければならないと思います。

石川:日本の広告会社、もちろん大広が生き残っていくためには、どのようにビジネスを推進していけばよいとお感じになりますか。

ロン:大広の経営陣の方は今、市場でどのようなことが起きているのか、その変化に対してしっかりと認識をされていると思います。
実は経営陣の皆様とお話しをする機会を得まして、非常に新しいことに対して厭わずに試してみようという考えをお持ちだと感じました。
大広に限らず、やはり大企業というのは方向性を変えるのは決して容易ではありません。
ただ、やはり若い従業員の皆さん、そして変化を目の当たりにしている従業員の皆さんというのは、早く変わりたいとフラストレーションを感じているかもしれません。
もちろん、ビジネスオーナー、経営者の皆さんというのは市場が向かっている方向に自分たちの事業も向かわせたいという気持ちはあります。
ただ、経営者の皆さんは既存のクライアント、そして既存のスタッフに対しても大きな責任をもっていらっしゃいます。ということで、私の企業もそうですし、御社の企業の経営者もそうだと思いますが、バランスを取ろうとしているのだと思います。
もちろんビジネスを前に進めなくてはいけないのと同時に、これまでの成功を築いてきた大切な従業員、大切なクライアントを失わないようにバランスを取ろうとしているのだと思います。実は、大広は決して日本の市場に遅れをとっているわけではないと思います。若干市場より先に行っているのだと思います。
アクティベーションデザインという考え方を持っているということは、ビジネスが将来どこに向かっているのかということを誰かが考えている一つの証だと思います。

石川:新規クライアントさんと取引をする場合、アクティベーションデザインを実施していくためには、どのように切り込んでいったら良いと思いますか。

ロン:やはりそのアクティベーションデザインのエッセンス、要素というのは何なのかということをまず掴むことから始める必要があるかと思います。
アクティベーションデザインのことを説明したり、語ったりする必要はないと思います。実際にそれを実行に移す、アクティベーションデザインの 考え方を活かすということが必要なのだと思います。

昔はダイレクトマーケティングという風に言っていたものが、今日では普通のマーケティングに変化しています。
今回、アクティベーションデザインの実際のモデルを拝見し、日本の市場が今どこに向かっているのか、日本の方ともお話しをしまして、初めてそのアクティベーションデザインというものが、本当に先見の明を持った、将来を見た上で作られたものなのだということがよくわかりました。
特に、生活者と企業が、どうつながり、どう顧客化し、ロイヤル化していくのか、その全ての行動に向き合っていくというところに興味を惹かれました。
クリエイティブの要素というよりは、どのようにその行動を見ているのか、大広がどのようにしてクライアントが 変わっていくのを手助けしようとしているのか、行動を、様式を変えていこうとしているのかが見えてきました。まさにダイレクトマーケティングでも、それこそマーケティングの将来だということで、 その考え方を受け入れるべきだなと感じました。

石川:もはやマーケティングとはダイレクトであるという時代になったと先ほどおしゃっていたのですが、そうなった時に、 ダイレクトに強い大広に依頼しなくても良いのではないか、となった時に、大広が選ばれるようになるためには 何が必要でしょうか。

ロン:違う形でビジネスを見ていく必要があるのではないでしょうか。
すべてのクライアントさんが大手を使いたいと思っているわけではないと思います。実はアメリカでは大手の広告会社、 ビックネームと言われているようなところはどんどん縮小しています。実はなぜクライアントが小さな広告会社を選ぶようになったかというと、クライアントにとってアジリティ、スピード感、そして自分たちがもっている予算内でしっかりとサービスを提供して欲しいというニーズから、大手から小さなところへ流れているわけですね。そして、ほぼ全てのクライアントさんが体験を求めております。カテゴリーに関する体験、チャネルに関する体験、近代的なマーケティングに関する経験を求めているというケースもあるでしょう。
もしダイレクトマーケティングがマーケティングになったという考え方に同意いただけるのであれば、大広がこれまでダイレクトマーケティングの中で培ってきた経験というのは、現在のクライアントさんもこれからの新規クライアントさんも、まさに求めているものと一致すると納得してもらえると思います。
そうすると、やはりこれまでの従来型の広告会社に比べて、大広は大きなアドバンテージを持っているということに気づくことになると思います。
大広は、こういったアドバンテージがあるよということを、今後の見込みクライアントにお伝えできるのではないかと考えます。

石川:アクティベーションデザインのすばらしいところは、クライアントが大きくなって、売上や利益が伸びていけば、それと同じように私たちのサービスを提供する機会も増えていくし、最終的にチームとしても一緒に伸びていけるところにあると思っています。
弊社の話しばかりしてしまったので、最後に少しだけ別の質問をさせていただきたいのですが、この先、広告会社が生き残っていくためには、何が必要だと思いますか。

ロン:ひとつは、プロダクトミックス、サービスミックス、その構成、スタッフの構成等々、現在自分たちがやっていることが全て正しいと思いこんでいる会社です。そういった企業というのは、今それが正しくても、明日は生き残れない。
そして、生き残れない企業のもうひとつの特徴というのは、実証されていない、成功が保証されていないような 新しいアイデアのかたまりに一気に飛びついてしまうような企業です。ソーシャルメディアもそのひとつです。 ソーシャルメディアはもちろん消費者にとっては非常に価値のある、バリューのあるものですが、マーケターにとって、プロモーションを行う上で効果的であるか、価値があるかという点ではまだ実証されていません。つまり、ソーシャルメディアのみに飛びついてしまった会社というのは潰れてしまいます。
ということで、将来成功する広告会社というのは、そういった新しいアイデアですね、2つか3つ、もしくは5つになるかもしれませんが、ひとつに全てを傾けてしまうのではなく、いくつかの異なる領域で、幅広く小さな形で試している、試していく、新しいアイデアを取り入れていく広告会社だと思います。
そうすることで、もちろん収益源も多様化しますし、クライアントもそれぞれ成長していくと、ひとつの領域に頼るのではなくて、いろいろな領域でクライアントが成長していくことになります。

石川:今、クライアント側の広告宣伝担当は、自分でメディアでもクリエイティブでもでも作れる、選べる時代になっています。それでも、クライアントが広告会社を使う理由はどこにありますか。

ロン:彼らは決して総合広告会社を使う必要はないわけです。
総合広告会社はお客さんに対して新しいアイデアを提供して、その成長に対する道筋というのを見せてあげて初めてクライアントにとって価値のあるものとなります。
1992年ですが、通販のクライアントがいまして、そのクライアントに対してインターネットを提案したいなと私は考えました。
そしてデモを見せ、彼らのホームページを作ってあげたわけです。
未だにそのクライアントは私のお客さんです。20年たっても未だにお客さんです。なぜかというと新しいアイデア、価値というものをずっと提供し続けてきたからです。やはり、広告会社の役割というのはクライアントにとって新しいアイデア、今まで聞いたことがないようなアイデアを提供するということにあると思います。

石川:そうですね。私がそのお話のエピソードを伺って思ったのは、ロンさんが、そのお客さんに対して、そのサービスに対してすごく熱意があったのだと思うのです。そのパッションがあるから、新しいアイデアをお客さんに提供するために、 いろいろ勉強されたのだと思います。私がそのお話しから感じたのは、小手先のアイデアとか手法とか、広告会社の都合とかではなく、結局はパッションです。広告人、マーケターとしてのパッションをすごく感じました。

ロン:本当におっしゃるとおりだと思います。やはり、この業界で働いていくためにはパッションがなければならないと思います。自分の仕事が好きである、自分の仕事を愛している、ということから学びたいという気持ちが生まれるのだと思います。
私は生涯学習が非常に大事だと感じていまして、その学習から結局は今、ティーチャーとして教えることもやっているのですが、自分自身のことを決して先生だとは思ってはいません。いつまでも学び続ける学生だという風に思っています。そうすることで、いろいろな新しいアイデアが生まれてくるのだと思います。

石川:本日は今後の励みになる貴重なお話しをありがとうございました。

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